2011-02-21  レトリーバル No.14

(あの、きれいなお姉さんは、誰だったんだろう…。)

少女は三面鏡を、頬杖をついて、覗き込んでいた。

(K子おばさん(母の妹)にちょっと似てる。
 けど、知らない人だった。
 でも、どこかで見たことがあるような気がする。)

うーん、とうなりながら、少女は三面鏡とにらめっこしている。
少女のよくやる遊びが、母親が嫁入り道具として持参したこの三面鏡を覗き込む事だった。

鏡の世界には自分の顔が様々な角度で写しだされ、万華鏡の様に無限に繋がっている。
もしかしたら、その中の一人が笑い出すのではないか、と空想するのが好きだった。

母「しんじゅ☆♪ー!二階にいるの〜!」

私「あ、は〜い。おにかいにいるよ〜!」

母「ちょっと、こっちにいらっしゃい!!いい事あるから!」

少女は声をする方へ振り返り返事をすると、再び慌てて三面鏡へ向き合い、鏡を閉じようとする。

すると、鏡の中の一人の自分がクスリと笑ったような錯覚を覚える。

私「アレ?今、笑った?」

母「しんじゅ☆♪、早く、いらっしゃい!」

私「あ、は〜い。いますぐ。」

結局鏡をよそ見した格好で慌てて三面鏡を閉じる。
そして、飛ぶようにして、階段を降り、母親の元へ駆けつける。

私「何?お母さん。」

母親はニコニコしている。

母「うふふ。しんじゅ☆♪、いい事あるって言ったのに、ちょっと遅かったわね。
  何してたの?」

私「うん、神様に会っていたの。」

母「神様に?どうやって?」

私「鏡の中のおめめをじっと見るの。
  ずーっと、ずーっと、見てると、神様に会えるの。」

母「神様って、どんな姿なの?」

私「大きくて、あったかくて、丸くて、金色の光の球なの。」

母「まぁ、素敵!なんて素敵な想像力かしら?」

私「そこではね。
  お母さん、私、お姫様なんだよ。
  かっこいいんだから!
  いつも、青い目と緑のお目目のきれいな天使がいるんだよ。
  そして、私の事、「緑の姫君」って呼ぶの。
  後、お友達に男の子のドラゴンがいてね。
  私を背中に乗せてビューってお空を飛ぶの。
  気持ちいいんだから!」

母「まぁ、しんじゅ☆♪ちゃんたら、ドラゴンだなんて、どこでその言葉を覚えたの?
  外国の言葉で日本語で竜の事よ!」

私「りゅう?」

母「神社の入り口で手を洗うところがあるでしょ?
  そこで水を吐き出している、想像上の生き物の事よ。」

私「あぁ、あのヒモみたいな、ヘビみたいのね。
  ちがうよぅ!ドラゴンはあんなに細くない。
  もっと、カッコいいんだから!!
  知ってる?ドラゴンは雄が青色で、雌が緑か紫なの。」

母「まぁまぁ、しんじゅ☆♪ちゃんはロマンティストね。
  想像力も豊かだし、きっと、将来、作家さんになれるわ。」

私「さっか?」

母「お話を作って、本にする人の事よ。
  お母さん、本を読むのが大好きだから、しんじゅ☆♪ちゃんにも本好きになって欲しいわ。」

私「うん、本スキになる。サッカさんになるよ。」

母「そうそう、しんじゅ☆♪ちゃん、今日はお姉ちゃんの誕生日でしょ。
  いっしょに、しんじゅ☆♪ちゃんの誕生日のお祝いをしようと思って。
  しんじゅ☆♪ちゃんの誕生日は赤ちゃんが来て、流れちゃったでしょう?
  だから、一月遅れだけれど、今日はしんじゅ☆♪ちゃんの誕生祝いなの。
  二人のために、ケーキを用意しておいたわよ。
  楽しみにしてて!
  しんじゅ☆♪ちゃん、4歳の誕生日おめでとう!!」

私「わーい!!ケーキだケーキだ!!嬉しいな!!」

私は、母親に優しくされて、嬉しくて、無邪気にはしゃいだ。

ふと、最近、この記憶が蘇った。

それは、大天使ミカエルさんにプロポーズする直前の事だった。


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