2011-02-21  レトリーバル No.6

(あれっ?この人、こんなに綺麗な男の人だったんだ!)

一瞬、ユアンさんの笑顔に思わず見とれてしまった。

いけない、それどころではなかった。

すぐに視線を幼い自分へと向け、そちらへ歩き始める。

すぐ後ろをユアンさんが連いてくる。

私「…ここに来た目的を忘れる所だった…。」

ふと、奇妙な違和感を覚える。

(…おかしい、さっきの衝撃の時、
 「この男を殺す。」から、「…破壊する。」
 までの間の記憶が欠落している。
 どういう事だ?
 しかし、それを詮索している時間は無い。
 きっと、臭い感情に蓋をして、それが醗酵し、暴発して記憶が吹き飛んだんだろう。
 醗酵なんてものは納豆と、キムチに任せておけばいい。
 どちらも私の好物だ)

幼い自分の側に佇み、床に膝を着く。

少女は意識を失っているようだ。

右手で少女の額を拭う。

額は汗と涙で濡れており、前髪がいびつに張り付いている。

触ったところで、髪ひとすじ動かせやしないのだが、思わずそうしていた。

私「可哀相に。
  こんなに幼いのにこんなにつらい思いをして…。
  これでは男性恐怖、いや人間不信になるはずだ。
  …人間とはすごいな…。
  生き延びる為に、私はこの記憶を封印していたのか。」

ユ「君もすごいよ。」

思わず、照れてしまい、聞こえないフリをする。

私は立ち上がり、彼に向かって説明を始める。

私「この少女を救うには、私の力だけでは無理だ。
  そこで、私はバイロケーションで、もう一人私を作る。
  彼女に癒し手達の協力要請を行ってもらう。
  そして、私はリモートビューイングで視覚のみ、彼女をトレースする。
  ここに残る意識体の私は彼女からの連絡を待つ間、精神統一を図る。
  その間、あなたには私の意識体をガードしてもらいたい。
  この空間に潜む邪悪なものから私を護って欲しい。
  あなたを信頼している。
  できるね?」

ユ「了解!」

私「よし!コンセントレーション!(注1)」

私は胸の前で両手を上向きに合わせてパンっと叩く。

すると、目の前に幾重にも重なったふわふわのシフォンのワンピースを着た私が出現する。

足元は麻素材の編み上げの靴を履いている森ガール風な女性だ。

逆巻いていた髪の毛が静かに落ちると、彼女は瞳を開く。

私A「手はずは分かっているね?
   時間が無い。
   急いで、精霊達の協力を仰いで来て欲しい。」

私B「分かったわ。」

私A「私もすぐ後を追う。
   少女を救う鍵はあなたの双肩にかかっている。
   大変だと思うがあなたならできると信じている。
   さぁ、行って!」

私B「了解。急ぐわ。」

フッと、目の前の私Bの姿が掻き消える。

私はユアンさんを見て、無言でこっくりと頭を下げる。

ユアンさんも頷く。

そして、私は少女に向き直り、瞳を閉じて胸の前で手の平を合わせる。

パンッ!

私A「コンセントレーション!」

少女の体から、熱と光のゆらめきを感じる。

ボボッ、ボボッボボッ、ボワッ、ボボボボボ。

大分チャクラが乱れているようだ。

やはり時間が余り無い。

後ろにユアンさんがいるのを感じる。

キーン、と澄んだ金属音がしたかと思うと清浄な空気に満たされる。

部屋に結界を張ったようだ。

私A「リモートビューイング!」

すぐに視覚のみ私Bを追跡する。

いた!森の中に白色のシフォンワンピース姿の自分を発見する。

ここはフォーカスエリアではどこにあたるのだろうか。

わからないが多分27とかよりはずっと上の様な気がする。

森の中を駆け抜ける、彼女に追いつく。

私B「はぁ、はぁ、急いで、急いで私だけの『魂の部屋』へ。(注2)
   湖のほとりの精霊が集まるあの小屋へ。
   あの少女を救わなければ…。」

私A「追いついたわ。」

私B「待って、もう少し。」

私Bは森を抜け、林を駆け抜ける。

すると、湖の畔のロッジ風の小屋へと辿り着く。

私Bは小屋の扉をもどかしげに開けると、靴も脱がずに窓際へと一直線になだれ込む。

そこには私が以前に具象化しておいた、美しいステンドグラスが輝いている。

紫色の空の下、青色の湖の畔に白百合の花が咲き乱れている。

夜空には金色の大きな星が瞬いているデザインだ。

私B「はぁ、はぁ、急いで、急いで光をチャージしなくちゃ!」

(あぁ、焦るな。しっかり、一つ一つの力を手に入れなくては。)

まずは湖の<ブルー>の光を浴びる。

静けさと知性を取り入れる。

次に夜空に瞬く星の<金色>の光を浴びる。

さらに知性を活性化させる。

次に白百合の葉の<緑>の光。

癒しの光、私に力を与える。

その次は夜空の<紫>の光。

神の子の光。スピリチュアリティを高める。

最後に白百合の<白>。

総合的に一気に癒しの力を高めます。

私は虹色の光を受けて、自身の内に神聖な力が宿ったのを確信します。

私B「よし!次は精霊を呼び出さなくては。」

私は、私が以前に具現化しておいた、天蓋つきの大きな白いベッドに滑り込みます。

もう、靴なんて構ってられません。

最上の絹を使用した、すべすべの手触りの白い清潔なシーツの中に横たわり、胸の上で両手を組み、瞳を閉じます。

私B(光の癒し手達よ。傷ついた少女を救う為に、協力を願います。
   どうか、私達に力を!)

すると、ベッドの周りにローブを見に纏った人々が忽然と出現します。

彼らは横たわった、私の体の上に自らの右手を差し出します。

彼らの手は大人や子供、老人に女性。
白人や黒人。黄色人種など、様々で全部で八人現れます。

私Aの視覚はその様子を上空から見届けて、ローカル1へと帰還します。

私Aの視覚はユアンさんの側の意識体へと戻ります。

私は瞳を開けて、再び胸の前で両手を打ち鳴らします。

パンッ!

私A「コンセントレーション!」

一気に精神統一を図ります。

私A「(私Bに向かって)準備はいい?」

私B「OKよ!」

私Aは少女の傍らに立ち、右手の平を少女の体の上にかざします。

そして、ソレを詠唱します。

なぜ、その言葉が私の口から零れるのか、それは私にも分かりません。

私の口から紡がれるその言葉は、私が生きてきた中で聞いたことも無い言語です。

私の頭の中で、私の意識体の口から発せられる言葉と一音も違わない男性の声が響きます。

私「父と、子と、精霊の御名において」
男(父と、子と、精霊の御名において)

私「汝の僕を救い給う」
男(汝の僕を救い給う)

私「私の体を導管にして」
男(私の体を導管にして)

私「傷ついた幼子を癒し給え!」
男(傷ついた幼子を癒し給え!)

私「アーメン!」
男(アーメン!)


ッドン!!!


凄まじい量の白い光の本流が室内全体に降り注ぎます。

やがてそれが収束され、私達の周り直径2m程の光の柱となります。

私は皓皓と輝く光の本流の中に佇み、

(よし、成功だ!手応えあり!)

と振り切れそうな右腕を左手で支えます。

右手にはビリビリと電気が走ったかの様な感触があります。

光の柱の中には上下の対流が起こっており、外側は下向きの流れがあり、逆に内側には上向きの流れとなっています。

私は、前髪が逆向くのを構わず、少女の体の上に手の平をかざし続けます。

すると、少女の体の下から、黒色の物体がフワフワと上昇し始めます。

それらは、白い光の中で、モロモロと形を崩し、上昇しながら霧散していきます。

そして白い光の直径は徐々に縮んで行きます。

やがて少女の額の所で、まるでクモの糸がふつりっと切れるかの様にかき消えます。

再び、暗いオレンジ色の光源のみの闇の中に戻ります。


ユ「やった!成功か!」

私「いや、まだだ!

  これから細胞に残った、恐怖の感情をレトリーバルする!」


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ヘミシンクとゆるゆる日記