2011-02-21  レトリーバル No.8

ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン…

私達はお互い、いだきあって、オレンジ色とピンク色を基調とした空間を上昇し続けている。
周囲にはラグビーボール大の光の球がたくさん浮かび、黄色や白、淡いピンク色に光って下降しては消えていく。
まるで、万華鏡の世界の中を昇っていくかのような空間だ。
微かにヒューン、という、機械音のような、縄を振り回して空気を切り裂くような音が鳴り響き続けている。

私達は昭和52年から平成21年へと戻る途中だった。

ユ「今日は、脳がすごく疲れたからね。
  戻ったら、ビタミンCをとるんだよ。
  あと、グランディングにはチョコレートもいい。
  あ、でも君は砂糖が苦手の体質だから、あんまり摂り過ぎるのも良くない。
  だから、果物とか、自然のビタミンと、ミネラルと糖分を摂取したほうがいい。
  水分補給も大事だ。
  水やお湯をたっぷり飲んでね。
  でも、カフェインが多いのは良くない。
  コーヒーは駄目だ。せめて緑茶にして。
  これもカフェインが多いけど、鎮静作用があるだけまだいい。
  できればアイソトニック飲料が」

私「ユアンさん、長い!
  もう!私は子供じゃないんだから!
  分かってるよ。
  戻ったら、マルチビタミンのサプリを飲むよ。
  ユアンさん、お母さんか保育士さんみたいだよ!」

ユ「君が大事で心配なんだ。」

私「クスクス。大丈夫だって。こども扱いしないで。」

ユ「くす。」

私「ん?何?思い出し笑い?」

ユ「うん、懐かしいなって思って。
  よく、昔君を乗せてこうして飛んだなって…。」

私「乗せて?抱いてじゃなくて?」

ユ「うん。」

私「そういえば、私とユアンさんの関係って何なの?」

ユ「古い友達さ。
  とても、とても古い友人なんだよ。」

私「へぇ〜、友達だったの。」

ユ「そう。とても大切なね。
  僕は、君が何度転生を繰り返しても、その魂を必ず見つけ出して友達になる。
  そして、一生君を護る。
  君と僕は昔、そう、約束した。
  それが君の古い前世の話。
  今は事情があって、詳しく話せないけど…知りたい?」

私は内心、舌を巻いた。
たかが友達にそこまで尽くす心の広い人間がこの世にいるのだろうか、いやきっと目の前のこの人がそうなんだろう、と納得する。

私「ロマンティックな話だけれど…、構わないわ。
  自分の前世になんて、たいして興味もないし。
  大事なのは、今、ここだけだから。」

ユ「そうだね。」

私達はクスクスと笑いあう。

ふと、ユアンさんが顎を引いて、頭を傾ける。

私はすぐにピンときて、すぐに彼の真似をする。

私達はおでこをこつんとくっつけて、再びクスクスと笑いあう。

ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン・・・

ユアンさんが顔を起こし、上空を見上げる。

ユ「もうすぐだ。」

私も上空を見上げると、小豆大ほどの小さな金色の光が見える。

私「ええ。」

ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュヒュヒュヒュヒュ・・・  

みるみる私達は上昇し、周囲で鳴り響いていた音も、響く間隔が短くなっていく。

金色の光は大きく広がり、金色の天井の様になって、近づいてくる。

ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ・・・

私達はいだきあったまま、金色の障壁を抜ける。

ッドン!

金色のスパーク!


          「おかえりなさい。」


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