2011-02-21  レトリーバル No.2

自分が結婚できない原因を解明し、解消したい。

渋るユアンさんを説得し、その目的の為、彼に抱きかかえられる格好でフォーカス21からその現場へと移行します。

すると、暗闇の中で二人でうつ伏せ気味に空中に浮いている状態に気づきます。

私の左隣にユアンさんがいて、彼が私の左手を握っています。

(暗いな。どこだろう、ここ。
 あれ、この匂い、私、知っている。)

暗闇の中で、かすかにイグサの香りがします。

そして、その中に、成人男性特有の汗の匂いも。

(畳の匂い…。ここは和室か。)

少しづつ、目が慣れてきて、眼下の光景が視認できるようになります。

振り返ると、すぐ後ろに木目の天井が見えます。

どうやら、自分達はどこかの和室の天井近くに浮いているらしい、と認識できます。

室内には照明がついておらず、障子戸の外からの薄暗い明かりのみが光源となっています。

「くすん。すん。すん。」

どこからともなく、微かに子供の泣き声が聞こえます。

その声が、次第に鮮明に聞き取れるようになります。

「ヒック、ヒック。ック。ヒャッ。ケホ。ケホ。ヒック。」

どうやら、自分達のすぐ足元から聞こえるようです。

(幼い子供の泣き声?それにしては妙な呼吸だ。
 何か様子がおかしい…。)

泣き声と共に、徐々に私の視界もクリアになってきます。

「ごそ、ごそ。」

暗闇の中、何かが蠢きました。

私がそれを見ると、肌色の何かが動いているのが確認できます。

心臓がドキドキしてきます。

(人間の足だ。裸足の。)

それは乱れた布団の上で、体をくねらせた拍子に動いた、子供の足でした。

スラリと伸びたふくらはぎから先の部分のみが、シーツの波間の間から浮き上がって見えます。

(足に対して、かかとが大きい。
 子供というより幼児の足だ。)

胸騒ぎがし、嫌な予感が走ります。

心臓の鼓動が速まるのが分かります。

イヤだ。見たくない。イヤだ。でも見なければ…。

私の視線が、幼児の足首から上体へと移動していきます。

部屋の右側には曇りガラスがはめ込まれた障子戸があります。

その先にはワット数の低い電球による暗めのオレンジ色の照明が灯されています。

子供の姿は暗闇の中、そのほの暗い照明を背に浴びた状態で浮かび上がって見えました。

眼下の子供は右腰を下にして、体をエビの様に曲げ、指を噛みながら横たわっています。

すらりと伸びた足の付け根には、下着が着いていません。

上半身のみパジャマを着ており、荒い不自然な呼吸で一人で泣いています。

(なぜ、半裸なんだ…。)

子供には障子戸を通して暗いオレンジ色の光が投げかけられ、歪んだ格子模様の影がついています。

乱れたシーツの波間に横たわるその姿は、まるで、無数の黒い蛇に縛られているかの様に見えます。

(ゾワッ。)

全身に悪寒が走り、体が総毛立ちます。

思わず両手で自分を抱きしめます。

心臓の鼓動が更に速く激しくなり、首筋の頚動脈がドクン、ドクンと大きく震えるのが自分でも分かります。

自分の耳の後ろを流れる毛細血管の血流の音がジュンジュンとこだまして聞こえてきます。

(これは、この子供は、まさか…)

その時、眼下で子供が寝返りを打ちます。

横向きだった体を仰向けにして、その表情が見て取れます。

ほの暗い照明を浴びて浮かび上がったその顔は、涙やよだれに濡れて苦悶の表情をしています。

黒く豊かなおかっぱ髪も、見るも無残に乱れて、汗と涙で濡れた額に張り付いています。

(この少女は私だ!)

そう、悟った瞬間、私の下腹部に軽い鈍痛が走ります。

その直後、私は”恐怖”に取り憑かれました。





私達が訪れたその場所は、愛知県某所。昭和52年10月6日深夜。

眼下に横たわる少女は、紛れもなく、幼い日の私自身の姿だったのです。


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ヘミシンクとゆるゆる日記