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少女時代17

教師「しんじゅ☆♪君、ちょっと話がある。前回提出してもらったレポートについてだ。
   放課後、資料室に来るように。少し時間が長くかかるだろう。」

チャイムが鳴り、教科書を片付けようとしていた私に、世界史の教師が耳打ちしてきた。

私「?はい。何かあったんですか?」

教師「詳しくはここでは言えない。とにかく一人で来るように。」

そう言い置いて、教師は教室を出て行ってしまった。

なんだか、愉快な話では無さそうだ。提出期限切れで出したのがまずかったのか…。
そんな事考えていると、同級生達がワラワラと集まってくる。

友人M「何々〜!こそこそ内緒話しちゃって!」

友人Y「どした?しんじゅ☆♪氏。何か問題でも?」

私「あぁ、うん。なんか、夏休みの課題のレポートのついて、話があるとか、長くなるとか。
  資料室に呼び出しになった。」

友人M「何?あんた、本の丸写しした訳?」

友人K「あぁ、私は丸写ししたけど?しんじゅ☆♪もやったのか?」

私「丸写しはしてないよ。でも提出が遅れたから、それでかな?」

友人M「でもUも提出遅れたっていってたぜ。他にもいたろ。何かやらかしたか?」

友人Y「でも、なぜ職員室でなく、資料室なの?変だな〜。」

友人K「あぁ、あいつ職員室では浮いてるらしいぜ。
    そこが根城らしい。ま、健闘を祈る。」

友人Kに肩をポム、と叩かれて、不安そうな顔で私は資料室に向かった。

私「失礼します。」

ガラリ、と資料室の扉を開けて、中に入ると、世界史の教師が憮然とした表情で両手の指を組み、足組みをしながら、キャスター付きの安っぽいグレーのイスに座ったまま、こちらに向き直った。

教師「あぁ、ご足労願って、悪かったね。
   質問だが、君の家族構成と、職業、さらに学歴について尋ねたい。」

私「え。レポートの話では?」

教師「いいから、まず私の質問に答えなさい。」

私「?…父、八百屋、中卒、姉、デパートの販売員、高卒、兄、システムエンジニア、高卒、後は弟が小学生です。」

教師「母親は?」

私「5年前にガンで死んでます。」

教師「そうか、悪かったな。親戚に学者が研究者、または宗教学や民俗学を専攻している学生とかいないのか?」

私「いや、知りません。いるかも知れないけど、付き合いが無いので。」

教師「しんじゅ☆♪君。正直に言いなさい。レポートを誰かに手伝ってもらっていないかね?
   それも専門知識をもった大人に。」

私「そんなヒマ人、私の周りにはいませんよ。」

教師「…そうか。
   君は、神や仏について、どう思う?
   実家は何を信仰している?
   または君の宗教観について訪ねたい。」

私「?はぁ。仏壇があるので、仏教だと思いますが。
  何派とかはよく分からないです。
  親も全然、そういう事に興味ないし。

  神や仏は信じたい人が信じていればいいんじゃないですか?

  私は毎日ご飯が食べれるかどうかの方が、大事ですから。
  そんな余裕のある人たちがちょっとうらやましいです。

  そんな目に見えないものに気持ちが行っちゃう人は、心が弱いひとか、物凄く心のきれいな人か。
  どっちみち、宗教団体のいいカモだと思いますけど。

  宗教自体は、弱者を救う、教えでいいとは思いますけど。
  それを扱う団体になると、うさんくさい。

  おいしい思いが出来るのは、最初から始めた要領のいい奴だけで。
  大抵は頭の弱い連中を丸め込む、詐欺かペテン師だと思いますよ。
  良くて、正直者は清貧になりそうですね。
  喰ってけなさそう。
  どうせなら、アダム・スミスの国富論でも考えていたほうが、金持ちに近づけると思いますが。」

教師「『神の見えざる手』か。
   フム。以前からちょっと気になっていたが。
   なぜこの高校に入学した?」

私「この高校に入るのもいっぱいいっぱいでしたけど。」

教師「他の科目の教師に君の成績を尋ねた。謙遜はよしなさい。
   これだけの学力がありながら、なぜ商業高校なのかと訪ねている。」

私「家計の事情です。片親で、家業が傾いているんですよ。
  兄弟も多い。
  父親に、学年で50位以内に入らないと進学させないと言われて必死で勉強したんです。
  中学の遺産を食いつぶして、高校の成績がそんなんになってるだけです。」

教師「うちの学校で成績優秀な奴は大概そんなもんだな。
   ふむ。苦労人のペシミストか。
   その上無神論者。
   やはり、しんじゅ☆♪君は興味深いな。」

私「ペシミスト?」

教師「オプティミストの反対語だ。
   …早熟なんだな。
   うん、疑って悪かった。」

私「何が疑われていたんですか?」

教師「しんじゅ☆♪君のレポートの作者が誰かという事だ。
   読んだ後、どうしても違和感をぬぐえなくてね。

   十代の子供らしい、時に稚拙で素直な文面なんだが。
   根底に流れる思想が、非常に老成している。
   老獪と言ってもいいくらいだ。

   それに、恐ろしく専門的なのだよ。
   まるで、大人びた少女が書いた、というよりは、老人、それも研究者か学者が女子高生のフリをして書かれたかのような印象を受ける。

   それにこの間の中間は珍しく平均点を下回っていた。
   しんじゅ☆♪君はいつも満点に近いにも関わらずだ。
   それで、まさかとは思いつつ、つい疑ってしまったのだよ。

   君はどれだけの本を参考に書いたのかね。
   20冊は読みこなさないと、あれだけのものは書けないだろう。」
  
私「いや、一冊だけです。隣町の図書館でたまたま手に取っただけの本で。」

教師「素晴らしい教材だ。タイトルを教えて欲しい。
   特にレポートの後半部分が特筆に価する。
   手に入れたい。」

私「それじゃ、無理です。
  後半部分は全部自分で書いたことだから。」

教師「教材を使わずに?
   それじゃ、あれは全て君の想像か?」

私「だから、私はこう思うって書いてあるじゃないですか。」

教師「てっきり本の引用だと…。
   なぜ、釈迦の入滅後の事を、見てきたように書けるんだ。」

私「さぁ。なんでか頭に浮かんだ事を書いただけですから。」

教師「そもそも、夏休みの課題で、誰か歴史上の人物をレポートさせて数十年だが。
   教師人生で、釈迦をレポートしてきたのは、しんじゅ☆♪君が始めてだ。
   大概は日本人。外国人はそう多くない。
   外人だと、歴代のアメリカ大統領とか、三国志の人物、エジソンやナイチンゲール。
   ちょっと珍しい所で、アレキサンダー大王や、クレオパトラ、チンギス・ハーンといった歴史上の英雄を選択する。
   宗教家の始祖をテーマにした人物は初めてだ。
   宗教団体を否定しておきながら、大体なぜ、釈迦をテーマに選んだんだ。」

私「団体は嫌いですけど。
  宗教自体はいいと思いますよ。
  救われる人がいるでしょうし。

  遠い異国の遥か昔に興った、新興宗教が、今の日本に広まっているじゃないですか。
  単純にすごいと思って。

  宗教の事はよく分かりませんが。
  ゴーダマ・シッダ・ルタ個人に興味がわいたんです。

  彼は最初、王子様だったのに、乞食を見て、修行僧になった。
  普通、できませんよ。

  それが、こうしてお仏壇やお墓が当たり前の日本になっているし。

  すごいカリスマ性があったんだろうな、と思います。
  そこらへんを良く知れば、金持ちになるヒントが隠れている気がするし。」

教師「…嘘を言っている感じはしないな。
   元々数千年前の出来事だ。
   うさんくさい伝承やら異説がゴロゴロしていてはっきりしない。
   それなのに、君のレポートは様々な異説、通説を矛盾なく網羅している。
   これだけの話を組み立てるのは、並大抵の事ではないと思っていたが、それが想像の産物とは驚きだ。」

私「すんません。」

教師「謝る事は無い。褒めているんだよ。
   私がしんじゅ☆♪君の担任だったら、進学を勧めるがね。

   大学生ならトリプルAの評価だ。
   レポートの提出が遅れた事は不問にしよう。
   お宝教材が手に入ると思ったのに、肩透かしなのは残念だか。

   …しかし、君は最初の授業を受けただけで、私の主義、信条を一発で言い当てていた。
   君は自覚が無いかも知れないが、恐るべき慧眼の持ち主だぞ。」

私「ケイガン?」

教師「ああ。このまま卒業して、OLになるのはもったいない。
   私の勘では、しんじゅ☆♪君は教師やジャーナリストの資質がある。
   とにかく、進学を視野に入れておきなさい。」

私「無理ですね。お金がない。」

教師「あぁ。女の子に勉強を教えるのが嫌になる。
   すぐに結婚して、子供を産む。 
   勉強する機会が与えられない。
   こうして、勉強ができるせっかくの短い期間でも愛だの恋だのに浮かれてちっとも勉強しない。
   ふぅーっ。
   しんじゅ☆♪君も、せっかく学校にいる間はしっかり勉強しなさい。
   悪い虫がつかないように。
   ま、しんじゅ☆♪君は今時珍しいくらい地味だからな。
   つく虫もいなさそうだが…。
   ん、君はメガネの下…いや、やめておこう。
   セクハラだと訴えられそうだ。
   帰ってよし。」

私「失礼します。」

私は少々、ムッとしながらも、とにかく誤解が解けたことにホッとしながら、頭を下げて資料室を後にした。


いったん、教室に戻り、カバンとサブバックを手に取り、部室へと向かう。

教室で待っていてくれた、同じ部活の友人二人と連れ立って、渡り廊下を話しながら歩く。

廊下をペタペタとスリッパで歩く音が響く。

友人M「なぁなぁ。話ってなんだった?」

私「あぁ、夏休みのレポート、自分で書いてないと疑われていた。」

友人Y「はぁ?ヒドイね、それ。」

友人M「それって、出来がいいって事か?誰をテーマにしたんだ。」

私「シャカ。」

友人Y「渋っ!仏教だから大人が書いたと思われたのかな?」

友人M「くくっ、おもしれー。お前って本当、変わってるよな。
    で、結構時間かかってたけど、他には何か言われたのか?」

私「なんでもケイガンの持ち主だから、教師やジャーナリストの資質があるって。
  進学を考えろってさ。ケイガンって何?」

友人M「普通より目が利くって事だよ。
    頭がいい人物に使われる言葉だ。くくっお前が慧眼ね。」

私「あぁ、なんかアイツ誤解してるっぽい。
  私、特に頭いいとは思えんのだが。
  特に最近の中間テストの点数が悪かったし。」

友人Y「でも、珍しくない?しんじゅ☆♪氏、英語と情報処理以外はいつも上位だよ。
    平均点も採れなかったなんて、調子悪かったの?」

私「いや、他の科目はいつも通りだったんだけど。
  なんか、今回のテスト、範囲が100年戦争とかだったじゃない?
  ヨーロッパの各国が覇権を争う、面白いところだと思うんだけど。
  どうしても頭が受け付けなくて。
  薔薇十字とか、聖戦とか。
  教科書読んでもイライラして来て、記憶がスコーンと抜け落ちちゃってさ。
  そんで、あんな点数だったわけ。
  平均点どころか赤点スレスレだったよ。失敗失敗。」

友人M「話ってそれだけか?」

私「んー、家族構成のこと聞かれたり。
  女の子に勉強教えるの嫌になるとかなんとか。
  変な虫つきそうに無いなとか言われた。
  私のメガネがどうのとか。
  セクハラって何だ?」

友人M「セクシュアル・ハラスメント。
    性的嫌がらせの事だ。
    お前、しっかり言われてるぞ、セクハラ。」

友人Y「うーん、資料室に二人っきりとかいうのが怪しい。
    しんじゅ☆♪ちゃん、あの先生から熱い視線を浴びてるしね。」

私「あぁ、最初の授業の感想を書けと言われて。
  つい、うっかり、共産党員ですかって書いたのがまずかった。」

友人M「まずいだろ。それ。おもしれ〜な〜。」

ペタペタ、ズルッ、バタバタ。

私が突然、転びそうになる。

友人Y「大丈夫?しんじゅ☆♪ちゃん。」

私「しまった、話に夢中でこの階の渡り廊下を渡ってしまった。」

友人M「いつ見ても、おもしれーな。お前。
    どうして何も無いところで転ぶんだ。」

私「もう、足をとられるだけで、転ばなくなったぞ。」

友人Y「うわ。聞きたくない。」

友人M「お前、何十回目だ、ここで転びそうになったのは。
    目に見えない奴からも愁波を受けてんな。」

私「知った事か!突然、足首をつかまれるんだよ、ここを通ると!」

友人M「お前見てると、飽きないわ〜。クスクス。
    お前、実は何か特殊な才能があるんじゃないか?」

友人Y「そういえば、去年、突然担任の英語の先生に松葉杖をついた、高校生の息子がいるって言ってたよね。
    最近、聞いたんだけど、本当に息子さん足に障害があるんだって。
    それを学校には内緒にしていたらしいよ。」

友人M「国語の先生の親が具合悪いって言ってたじゃん。
    明後日死ぬかもって言ってたら、その通りになったし。
    ファンシーショップに買い物に行ったら、来月にはこの店潰れるとかも当たったし。
    何、お前、やっぱ霊感あるんじゃね?」

私「私はたいして霊感も無いと思うけど。
  でも、手塚治虫は明日死ぬな、とかそういうのはなぜか分かる。
  あと、誰が誰に虐められているとか、誰を憎んでいるとか、ふと脳裏に映像が浮かぶ。
  頭がこんがらがって、自分の気持ちなのか、想像なのか、他人の意識なのか気持ち悪い。」

友人M「ダークサイドの方面に感知能力が働くんだな。」

私「やだなぁ。私は普通の女子高生だよ。
  せっかく、平和な時代に生まれたのに。
  のんびりしていたいけれど。
  こうしていられるのもあとわずかだ。」

友人Y「卒業まではまだ1年以上あるよ。」

私「うん、そうだけど。そうじゃなくて。
  何か、大切な事を忘れている気がするんだ…。
  なんだろ、思い出せない。
  私がこうして日本にいるのは、あと2年くらいだなって、ふと寂しくなる時がある。」

友人M「何?海外にでも進出するのがわかるのか?得意の予知能力で。」

私「そういうわけでも無さそうだけれど…。
  誰かと何かを約束した気がするんだよね。
  誰か、大事な人が、私を待っている気がする。
  でも、ここを離れるのは、寂しい。
  性急すぎたみたいだ。」

友人Y「何が?」

私「何かが。
  何かが、もうすぐ、終わろうとしている。」

友人M「ふーん、茫漠とした話だな。
    そういう相談なら、Kにするのがいいだろう。
    さ、部活始めるよ。」

結局私達は、部室の前で少しの間話込んでいて。

それから、友人Mの言葉で、タイピング音の響く部室へと入っていった。



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