私「ねぇ、らぁえる、しんじゅ☆♪ちゃんも、もっといい名前がいい。」
ラ「え?どうしたの、突然。」
私達は、柱のようにそびえたつ、巨大なキノコの乱立する、広場にいて。
そこに丸くて白いテーブルと、椅子があり。
ゆったりと体を包む白いローブを身にまとって、優雅に腰かけていたラファエルに向かって私は駆け出し、椅子によじ登るとテーブルにかじりついて不満を訴えた。
私「だって、みかえる、とか、らぁえる、とか、かっこいいもん。」
ラ「どうして?○○子という名前も素敵ですよ?」
私「むぅ〜。しんじゅ☆♪ちゃんは、イヤ。」
ラ「そうですか。黒い髪に黒い瞳によく似合う名前だと思うのですが。
それはそうと、彼(ドラゴン)はどうしたんです?」
私「置いてきた。目が回ったって。ノド渇いた!ジュースちょーだい!」
ラ「う〜ん。見かけによらず、お転婆ですね。」
ラファエルは苦笑しながら、どこからともなく、白いカップに入ったオレンジジュースを差し出した。
私はカップに差し込まれたストローを放り出して、直接口をつけてそれをゴクゴクと飲み干す。
私「プハァ!それより名前、かっこいいのがイイの!」
ラ「そうですか…。それでは、『緑の姫君』というのはどうですか?」
私「みどりのひめぎみ…。お姫さま!?」
ラ「そうです。あなたの本名を別の言い方にすれば、そうなります。」
私「うわぁ!お姫さま!かっこいい!」
私はテーブルから身を乗り出し、大声を出すと椅子から降りて。
ラファエルの膝に手を置いてはしゃぎました。
ラ「気に入ってもらえて、嬉しいですよ。
元々そうなるように名づけられているんですけどね。」
私「わぁ!お姫さまだ!うわぁ〜い!」
ラ「それでは、これからは『緑の姫君』とお呼びいたしましょう。」
私「うん!らぁえる、かっこいい!ありがと。」
ラ「うふふ。どういたしまして。それでは、私があなたの名付け親って事ですね。」
私「らぁえる、お父さん?」
ラ「そうですよ?私の小さな姫君。」
そう言うと、ラファエルは足元にいる私を抱きかかえて膝の上に座らせました。
私は上機嫌で体をゆすっています。
背後からラファエルは私のおかっぱ頭を撫でています。
ラ「…もう少しですね…。」
私「何が?」
私がラファエルのつぶやきに振り返ると。
ラファエルは少し悲しそうな顔をして微笑み、私を抱き上げて自分に向かい合うようにしてひざの上に座らせました。
ラ「もう少ししたら、ね…。あなたの身に大変な事が起きます。」
私「たいへんなこと?何?」
ラ「…少し、痛い思いをすることになると思います。」
私「イタイ事?」
ラ「大丈夫です。大丈夫ですから、心配しないで…。」
そう言うと、彼は私をそっと抱きしめました。
私「らぁえる?」
彼はそっと私の体を離しました。
ラ「…あなたの望んだ事ですから…。
私が口出しすることではありませんでしたね。」
私「なに言ってるの?らぁえる、どこかイタイの?」
ラ「…緑の姫君…。
生きて。生き延びてください。
生きてさえいてくれれば、私達があなたをサポートします。」
ラファエルは真剣な表情でじっと私を見つめていました。
その瞳はどこか遠くを見ている様な、耳を澄ましている様な、そんな表情をしていました。
ラ「…延命させたか…。
しかし…ミカエルはずいぶん、綱渡りを…。」
私「なに?よくわからないよ、らぁえる。」
彼はふっと表情を和らげて、私の頬を撫でました。
ラ「ふふ。怖がらせてすみません。」
私「みかえるがどうかしたの?」
ラ「いいえ。どうもしません。ミカエルも私もあなたが大好きだというだけです。」
私「うん!しんじゅ☆♪ちゃん、みかえるもらぁえるも大好き!」
私がラファエルの膝の上でぴょんぴょんと乱暴に飛び跳ねたので、彼は私を床に降ろしました。
私は椅子に腰かけたラファエルを見上げる格好で彼と話を続けます。
ラ「ふふ。そうだ、あなたは大きくなったら私のお嫁さんになるんですよ?」
私「およめさん?およめさんって何?」
ラ「大人の女の人が、愛する男の人と結婚すると、お嫁さんと呼ばれます。」
私「じゃあ、しんじゅ☆♪ちゃん、らぁえるのお嫁さんになる!」
ラ「ふふ。ありがとう。」
私「お嫁さんになるから、なんかちょーだい!」
ラ「うふふ。それでは、私を差し上げます。」
私「えぇ〜?何かくれるんじゃないのぉ〜?」
ラ「私ではご不満ですか?緑の姫君。」
私「う〜ん。なんかいい物くれるかと思ったの。」
ラ「クスクス。お嫁さんの意味が分かっていませんね。
それでは、お嫁さんになる話はミカエルには内緒でお願いします。」
私「なんで?」
ラ「ミカエルもあなたを狙っているからですよ?クスクス。」
私「ふ〜ん?みかえるは何かくれるかな?」
ラ「さぁ、どうでしょうね?」
私「じゃあ、みかえるにお嫁さんにしてって言ってみる。」
ラ「う〜ん、お嫁さんは大人の女性がなるものですから。
あなたはまだ子供ですからね。
もらえるのはずっと先ですよ。」
私「えぇ〜!?すぐお嫁さんになって、何か欲しい。」
ラ「クスクス。
残念ですが、子供では無理です。」
私「じゃ、すぐ大きくなる!そんで、みかえるとらぁえるから何かもらう!」
ラファエルは椅子から立ち上がり、私の頭を撫でて、かがむと、私を抱き上げて立ち上がりました。
ラ「いいえ。あなたは子供ですから。
ゆっくり、ゆっくり大きくなってください。」
私「えぇ〜、それじゃ、お嫁さんになるの、忘れちゃう〜!」
ラ「忘れてくれてもいいんですよ?
私と結婚しなくて済むのならそれに越したことはない。」
私「らぁえる、何かくれるんじゃなかったの?」
ラ「私を差し上げますよ。
…あなたは大きくなって。
私たちを愛して、悩み、悲しみ、泣き続けるでしょう。
悲しまないでください。
あなたの為なら、泥をすすることもいといません。
鬼でも悪魔にでもなります。
私を汚したと言って、自分を責める必要はありません。
どんな役回りだろうと、それが私の望みですから。」
私「らぁえる?」
ラ「あなたは生き延びてください。
これから、あなたに試練が訪れます。
あなたを取り巻く環境は過酷なものになるでしょう。
それが、あなた自身が望んだものだとしても、耐えられないかもしれません。
それでも、とにかく、生き延びてください。
生きている限り。
私達、ガイドは全力で人間を愛し、サポートし続けます。
それが、あなたのこの生の課題。
それを伝えるのも、あなたの望み。
焦らないでください。
人と比べないで、自分のペースでゆっくり成長していけばいいんです。
あなたはあちらに戻ってしまえば、私達の事を忘れてしまうのでしょうけれども。
これだけは伝えておきますよ。
私達は皆、あなたを愛しているんです。」