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少女時代33

母「…でね、このおしべとめしべがくっついて、実がなるの。
 動物で言うと、雄と雌が仲良くなって子供ができるのと一緒ね。
 
 植物は、土から生えて、太陽の光と、空気と、お水があれば、自分で栄養を作って大きくなれるの。

 お花が咲いて、枯れる頃にはここに実がなっているのよ。
 その実から、種ができて、地面に落ちて。
 そこから、芽が出て、大きくなって、お花が咲いて、とその繰り返し。

 動物は自分で栄養を作ることができないから、植物の実を食べて体を大きくするのよ?

 分かった?」

私「うん。土から生えているのが植物。土から離れて動いているのが動物。
  じゃあ、この石は何物になるの?」

母「うん、石はね。鉱物というのよ。自分で栄養を作ったりはしないの。
 昔々、大昔から時間をかけて、マグマが冷えて固まったものだったりするのよ。」

私「マグマ?」

祖母「何をやっとる、ミキ(母の名前)。
 さやえんどうを採らせに行ったら、なかなか戻ってこんと思ったら、そんなガキに懇切丁寧に教えとらんでもえぇやろが。」

母「お母さん。」

私達は母の実家に来ており、玄関から少し離れたところにある、プランターになっていたさやえんどうを採りに来て、しゃがみこんで長々と話し込んでいました。

祖母「いちいち細かく教えんでもえぇやろ。

 そのうち学校で習ってくるさかいに。
 授業料がもったいないだろうが。」

母「お母さん。この子には、なんでも丁寧に説明しておかないと。」

祖母「たわけらしぃ。
 
 そんなに根を詰めとったら、親の身がもたんて。
 ほっとけばえぇやろうが。」

母「しんじゅはね、お風呂を見てきて、と言ったら。
  風呂桶にお湯を張らずに、お風呂を見てきた、と報告するのよ。」

祖母「風呂を見ろと言ったら、湯の具合を見てくるのが当然やないか。」

母「私もそう思って、ふざけているのかと叱ったらね。
 なぜ、自分が叱られているのか分からなくて、泣いているのよ。」

祖母「たわけか。」

母「お風呂のお湯が入っているか、見てきてと言ったのに、と言ったら。

 『お風呂を見てきて』と言ったから、お風呂をのぞいて来たのに。
 ウソを言っていないと、泣くのよ。」

祖母「親をからかっとるんやろう。子供のくせに嘘をついて、しょーもない。」

母「そうじゃないのよ。

 お母さん、寒くてがっかりした、と言ったら。
 寒い思いをさせて、ごめんなさいと言うのよ。

 話半分に聞いていて、忘れたとか。
 叱られて言い逃れをしている、というより。

 言っている意味が理解できないのよ。

 だから、この子には丁寧に言葉を伝えないと、伝わらないの。」

祖母「ますますたわけやないか。大丈夫か?」

母「学校の勉強もね…。

 色盲や、知能テストを受けたんだけど異常はないのよ。

 この子はちょっと足りない所があるから、こうしてなるべく丁寧に説明するようにしているの。」

祖母「できそこないか。
 しゃーない。
 女の子なんやし、裁縫や料理を仕込んでおけば構わんだろう。」

母「お母さん、お母さんの頃とは時代が変わっているから。

 女の子だからお嫁にいって、はい、おしまい、という訳にはいかないわよ。

 学校に行った後は、社会に出て、働いて。

 それから結婚するから。
 結婚してからも働くかもしれないわ。」

祖母「そんな先の事まで心配せんでもえぇやろ。

 ほっといても、子供なんて勝手に大きゅうなる。」

母「この子は頭が悪い訳ではないのよ。
 人の話をよく覚えているし。

 ただ、鈍い所があるというだけ。
 でも、全部に鈍い訳ではなくて。

 時々、大人でも見過ごすような、ハッとする事を言う事があるの。

 まるで、人の心が読めるような。

 この子は社会に出たら、苦労するわ。

 だから、今の内にたくさん常識を教え込んでおかないと。」

祖母「お前、四人も子供がいて、そんな事しとったら、身が持たんだろうが。」

母「うぅん、上の子達はとても利発だし、下の子も賢いわ。

 でも、確かに一人ひとりにはそんなに時間が割けないの。
 
 だから、こうして二人っきりの時は、たくさんお話をしてあげてるのよ。
 本もたくさん読ませているわ。」

祖母「まぁ、早いとこ嫁に出すんだな。」

母「お母さん、近頃の女性に必要なのは、知性と教養よ。」

祖母「たわけか。女は器量だて。

 F(私の姉)は色白で器量がえぇ。
 あの子は長者のトコに嫁げるが、こん子は不器量だで、難しいか?」

私「…おばあちゃん、嫌い…。」

私が母の背中に隠れて、小さくつぶやくと。

祖母「何言うとるんや!ガキのくせに、こんワシを馬鹿にするか!」

母「しんじゅ、そんなこと、おばあちゃんに向かって言う物じゃないわよ。
 お母さんも、いくら子供でも顔をけなされたら怒るわよ。」

祖母「器量が悪いだけやなくて、愛想も悪いのか!
 たわけやし、出来損ないやな!」

母「お母さん…。

 この子は五体満足で生まれてきただけで、もう十分親孝行よ。
 そんな事、言うものじゃないわ。

 それに、この子はかわいいわよ。」

祖母「…そうやな。
 
 五体満足に生まれてきただけで、よしとするか…。

 お前はワシの娘だけあって、お前の産んだ子らは皆、器量がえぇ。」

母「お父さんが男前だからね。」

祖母「お前は気立てもえぇのに。
 しょーもない男のとこに嫁いでからに。」

母「お母さん、子供の前だから!」

祖母「ワシはお前が一番かわいいのに…。

 しんじゅ、親の言う事を何でも聞いて、迷惑かけるなよ。分かったか!」

私「…はい。」

私は涙ぐみながら、うつむいて、手をぎゅっと握りました。
さやえんどうの青い香りがしました。

母は苦笑を浮かべて、私の手を握って母屋まで連れて行ってくれました。

母屋のかまちに腰かけて、しょんぼりしてしまいます。


私「お母さん、しんじゅ、不器量なの?お姉ちゃんと違って。」

母「そんなことないわ。どちらもかわいい私の娘よ。」


母は新聞紙を広げて、さやえんどうの筋取りをしながら、こちらを振り返って笑っています。


私「でも、おばあちゃんが…。」

母「おばあちゃんは、怒りっぽい人なのよ。悪気はないから、許してあげて。」

祖母「またワシの悪口か!めそめそして親に迷惑をかけとるんやないぞ!」

私「…。」

祖母が通り過ぎていくのを首をすくめて見送って。

母の側にくっついて、涙ぐみました。


私「おばあちゃん、イジワルだ…。」

母「そんな事言うもんじゃないわよ?今はちょっとご機嫌ナナメなだけ。」

私「しんじゅの事、嫌いなんだ。」

母「そんな事無いわよ。
 いろいろ物をもらっているでしょう?
 愛情が無ければ、そんな事にはならないからね。」

私「でも、出来損ないだと言ってた。」

母「本気ではそう思っていないわよ。

 おばあちゃんは、何にも考えずにポンポン言う人なだけ。
  
 世の中には、そういう人もいるものなの。

 気にしないでね、と言っても、気にするか…。

 しんじゅが不器量というのは、間違いよ。
 今はチンクシャかもしれないけれど。

 しんじゅちゃんは大きくなって、お化粧すれば、うんと美人さんになると思うわ。
 足の裏も大きいし、きっと背高さんになると思う。

 お姉ちゃんと二人、着飾って街を歩けば、きっと男の人がふりかえるわ。

 あぁ、楽しみだなぁ。
 どんな大人になるんだろう。

 今から楽しみだなぁ。
 3人でショッピングに出かけるの。
 美女二人に囲まれてね!

 お母さん、今からそれがすごく楽しみなの。」

眼鏡の奥の瞳が細くなっていました。



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