友人K「おい。しんじゅ☆♪、子供が憑いてるぞ。」
6時限目の授業が終わって、席を立とうとした私に、霊感の強い友人Kが声をかけてくる。
私「マジで?どーりで腰がだるいと思った。」
友人Kは指先をパチンと鳴らすと私の体がフッと楽になる。
友人K「もういいぞ。どこで拾った。ん?元々はYに着いて来た奴か。」
私「あぁ、そういえば、今日の体育祭の練習でで学校前の公園であの子がぐったリしてた時。
野球帽を被った5歳位の子供がYの膝に手を乗せているのが一瞬見えたな。
気のせいかと思ったら、幽霊だったか。」
友人M「何々ー?また面白オカルト話かっ!!混ぜろ。」
友人Y「えぇ?アタシに憑いてたの?こわっ。」
友人K「もう大丈夫。和尚に送らせたから。
(↑注・和尚=友人Kの守護霊。通称:オッサン)
それに、ちょっとやそっとの幽霊なら、コイツが吸引してくれる。
歩く、幽霊掃除機だ。」
私「ヤな表現やめて。
自分ではどーにもできないし、見えないし、聞こえないから。」
友人K「観えてんじゃん。体の具合はどうだ。」
私「うん、随分楽になったけど。なんか、無性に甘いものが欲しい。
炭酸飲みに行こうよ。」
「オッケー。」「ラジャー。」「了解。」
友人達と小銭入れを手に取り、中庭に面したところにある、紙コップのジュースの自販機コーナーへと向かう。
中にはそのまま帰宅する子もいて、鞄とサブバックも持ち歩いて移動する。
私「プハーっ、生き返った。うまいな、ジュース。
普段、あまり飲まないけど、時々無性に飲みたくなる。」
友人K「霊に憑かれると、甘いモンが欲しくなるんだよ。
多分、脳下垂体が刺激されるんだろう。
霊媒体質の奴には太った奴が多いのはそのせいだ。」
友人M「ふーん、ダイエットの敵だな。」
友人Y「そーゆー問題?」
友人M「そだ。しんじゅ☆♪昨日なんか変な事言ってたじゃん。
あと二年だとか何とか。それ聞いてみたら?」
友人K「何?あと二年って?」
私「あぁ、うん。なんか漠然とした話なんだけど。
結構、私、人の不幸な事が分かっちゃうことがあってさ。
そんな感じで、なんか、自分が後2年で死んじゃう気がするんだよ。
子供の頃から感じていて、ひしひしとタイムリミットを感じている。
昨日、世界史の教師に進学したらって、言われたんだけど。
…本当は大学に行って、勉強とかしたいな、とは思っていたんだけどさ。
なんか、自分の未来が信じられないっていうか…。
まぁ、そもそも経済的には無理めなんだけどね。」
友人K「あぁ、お前んち、ビンボーだからな。
親父も強烈だし、学費なんて出さないだろうな…。
でも、アタシもあんたが勉強したいって言うんなら、何とか方法を探して進学するのはいいと思うよ。
…そうか、自分の死期を感じるって話か…。
なぁ、しんじゅ☆♪。
お前、自分が生まれる前に自分の人生の青写真を描いてきたって話、信じるか?」
友人M「何?そんな話あんのか?」
友人Y「ウソー!じゃ、とんでもなく嫌な事も全部自分で計画したって事?」
私「え?青写真?って何?」
友人M「そこからっ?!…まぁ、プログラムの事だよ。
遠足のシオリみたいなもんだな。」
友人K「あぁ。その計画の細かさは、その人それぞれ。
適当に決めて生まれてくる奴や、細かくみっちり計画してくる奴もいて、千差万別。
まるで、その人の性格そのもののような決め方だよ。」
友人M「なるほど。読めたぞ!
つまりしんじゅ☆♪は19歳で死ぬって設定してきている訳だ。」
友人K「そゆ事。」
友人Y「え。ちょっと待って、そんなのすぐじゃない。
嫌だよ、友達が死んじゃうのなんて!」
友人M「まぁ、待てって。この話の流れからすると、解決策はあるわけだろ。
でなきゃ、口にしないだろ、普通。」
友人K「あぁ。
Yちゃんは優しい子だな。
だから通りすがりの子供に懐かれる。
そう、青写真の変更は可能だ。
多分、しんじゅ☆♪は生まれる前の感覚で20年もあれば実現可能だと思って、何か課題を設定してきたんだよ。
けど、こうして暮らしていると、そんな事覚えていないし、現世には数多くの誘惑がある。
こりゃ、期限までにかなえられそうにない、と魂が判断して、無意識に自分自身に警告を発しているんだよ。」
私「なるほど。なんとなく納得。」
友人K「よかったな、しんじゅ☆♪、メガネ処女のまま死ななくてすみそうだぞ。」
私「やかましいわっ!でもさ、そんなに簡単に変更可能なのかな?」
友人K「あぁ、大丈夫だ。生まれる前に設定したのは自分自身だしな。
現世を生きている本人が強く望めば、変更可能だ。
普通は、それに気づかない。
お前は霊感があって、よかったんだよ。
アタシも友達を早くに亡くすのは悲しい。」
私「そっか。ホッとした。それにしても何を設定していたんだろう。」
私は視線を上に向けながら、紙コップに残っていたジュースに口をつける。
友人M「…そうか、なら私がちょっと、ヒントを教えてやろう。耳を貸せ。」
思わず、彼女の方に顔を寄せると。
友人Mは私のお下げを引っ張り、私の顔にぶち当てた。
思わず、反動でジュースが零れる。
すると、中庭に面している窓際から、バタン、バシーン、バンッという音が聞こえてくる。
その場にいた全員が背後を振り返ると、4階建ての校舎の各階の教室の窓際にいた生徒達が激しく窓を閉じたり、窓ガラスを叩いたりして、音を立てていたことに気づく。
私「イタタ!何すんだよM!」
私は片手で鼻を押さえながらも、校舎の方を振り返ると、こちらを見ていた窓際にいる何名かの生徒が視線を反らせる。
友人M「今、何か、気づかなかったか?スゴイ音がしたぞ。」
私「ふざけるな!ジュースこぼしちゃっただろ!弁償しろ!」
友人M「あー、はいはい。気づかなかったのね。
弁償させていただきますよ。
どれ飲む?
たった80円で一度に複数の人間にいたずらが出来る。
安い投資だ。くくっ。」
私「チッ、ふざけんな!ファンタのグレープだ!」
私がおかわりのジュースを飲んで、機嫌を直していると。
友人K「よかったな、しんじゅ☆♪1杯半飲めて。
ところで、さっきのMのヒント、本当に気づかなかったのか?」
友人Y「ダメダメ。しんじゅ☆♪氏、がさつだけど、まだ少女ちゃんなのよ。
気づいても、アダルトな展開についていけないと思うよ。」
私「何か、窓際の奴らが騒がしかったな。地震でもあったか?」
友人M「クスクス。気づいてない、気づいてない。
よかったな、しんじゅ☆♪、アタシが友人で!
幸い、アタシにはガーデニングの趣味はない。
秘密の花園で花を育てる気は毛頭無いからな。
アタシはアンタといると飽きなくて嬉しいよ。」
私「は?ガーデニング?なんで園芸の話になるんだ?」
友人K「あ、来た来た。また一人ガーディナーが来たぞ。」
友人S「やっほー!しんじゅ☆♪、ジュース飲んでんの見えたから来ちゃった!
はい、お口開けて、あーん!」
友人Sがお菓子をつまんで私の顔の前に持ってくる。
栗入りのこしあんの一口饅頭だ。
私は口を開けて、お菓子を貰う。
友人S「おいしい?このお菓子好き?」
私「んぐ。んぐ。うん。好き。」
友人S「お菓子持ってきてくれるアタシの事好き?」
私「んぐんぐ。うん。好き。」
友人S「キャーッ!かわいいッ!」
そう言って、友人Sが私の頭を抱きかかえるようにして、飛びついてくる。
すると、また背後から、バンッ!ガタガタ!バシーン!という音が響いてくる。
私達が校舎を振り返ると、ついっと人影が教室の奥に消えていく。
友人S「しめしめ。成功ねっ!」
私「何の話だ?」
友人S「しんじゅ☆♪の処女はアタシが貰うって話よっ!」
私「何パーな事言ってんだ。
お菓子貰っといて悪いが、いい加減にしろ。」
友人Y「気づいてない。気づいてないよ、しんじゅ☆♪氏…。」
友人M「これだから、コイツをいじるのはやめられない…くくっ。」
友人K「お前さー。フーッ。
人の悪意には敏感なくせに、ほんと好意には鈍感だな。」
私「何の事だ。」
友人M「さっきの物音さ。こっち見てた奴ら、音立てたじゃん。
2回目、原因はなんだと思う?」
私「ジュースが飲みたくてこっち見てたんだろ。
眩暈でもしたか、奥で誰かに呼ばれたかしたんだろ。
なんだよ、さっきから遠まわしな言い方して、気色悪いな。
なぁ、K、どういう事が説明してくれよ。」
友人K「はぁー、説明すんの、めんどくせー。
お前、老若男女に好かれてるって話だよ。
幽霊含めてな。
お前の前世、女難だったぞ。
スゴイ数の女泣かしてる。」
私「マジで!稀代のプレイボーイだったとか!」
友人M「そーゆー気配は1mgも見受けられないが。」
友人Y「そだね。ぜんぜん色気無いよね。」
友人K「女泣かすのは、なにも弄んで捨てるだけじゃない。
好きにならせて、応えてやらないのも、男が女に恨まれるパターンだ。
もっと、世俗の垢にまみれろ、とオッサンが言っているぞ。」
私「…神聖さを冒さないようにって言ってた人、いなかったっけ?
白百合の花を持ってた人でさ。」
友人S「アタシあたし!はいっ!立候補!」
友人M「や、Sじゃ、むしろ逆だろ。
知らないな。そんな話。」
友人Y「うん、誰かな?なんとなくロマンチックだね。」
友人K「…ふ。ま、じゃあ、アタシ帰るよ。
あんた達、部活がんばんな。」
私「あ、じゃあね。今日はありがと。ばいばい。」
(そうか、すぐに死ななくてすむんだ…。
それじゃ、進学、真剣に考えてみようかな…。)
友人M「おい、しんじゅ☆♪、ぼさっとしてないで、部室行くぞ。」
友人Y「先、教室戻って、鞄取って来るね。」
私「あ、待って、あ、いや、先行ってて。手を洗ってから教室行くから。」
私は慌てて、紙コップを自販機横のゴミ箱に投げ捨て、べたつく手をもてあましながらその場を後にする。
(あれ、白百合のイメージと、白い歯。
誰かが…笑っていて。
なんだろ、このイメージ…。
進学に気持ちが傾いた途端、なにか思い出しそう…。
…誰かが、私を、待っているような気がする…。)
友人S「それじゃ、アタシも帰るか!
じゃあね!マイ・スイート・エンジェル!」
私「お前はまたパーな事ばっか言ってんじゃないぞ!
でも、お菓子、ありがとな!
ばいばい。」
生暖かい風が吹く中、私達は学校の中庭から散り散りに去っていった。