Welcome to my homepage

少女時代31

私「♪なにかくれ、は〜らへった、やっさしい声よりイモがいい〜♪
  いやっしいと〜ぉ、言われても〜ぉ、どうせ俺って、オヨねこじゃ〜ん♪」

弟「姉ちゃん、また変な歌、歌って。」

私「う〜ん、続きが思い出せん。」

私は父親のいない、居間でゴロゴロしていた。

この時間帯は父親は離れにこもって、音楽鑑賞に耽っている。

弟はさっきまで、私と一緒にいたが、ちょっと待ってな、と言い置いて自分の部屋に行ったかと思うと、階段を降りて、私のいる居間に戻って来たところで。

私が気兼ねせず、のびのびできる貴重な時間帯だったのである。

私「なっにかくれ、は〜らへった、やっさしい声より、イモがいい〜♪」

ぐぅぅ、と腹の虫が鳴く。

私「ひもじい…。」

弟「姉ちゃん、夕飯食べれなくなって、もう一週間か?」

私「いや、十日だな。」

弟「姉ちゃん、コレ、喰いなよ。」

そう言って、弟が差し出してきたのは、ゆで卵だった。

私「ふぉおぉ〜!ゆで卵!ありがとっ!!」

私は夢中になって、電源の入っていないコタツの板の上にゆで卵をぶつけて殻を割りはじめる。
テレビもコタツも、使う事が出来ないように、電源の配線コードが抜かれているのだった。

私「これで、塩があったら、サイコーなんだけどっ!!」

弟「そう思って、ホラ!」

弟は、コタツから、プラスチック製の青色のフタの付いた、あじ塩のビンを取り出し、私に渡す。

私「ふぉお〜!魔法の調味料っ!!最高!!!」

私は卵を二口で頬張る。
父親の意地悪で、この十日間程、夕飯は抜きになっていた。

弟「姉ちゃん、これぐらいしかできないけど、ごめんな。」

私「いいよ、いいよ!今日は卵食べれたし!ほんと、機転がきくな、お前。」

弟「なんで、父ちゃんは姉ちゃんにこんな仕打ちするんだろう。」

私「さぁなぁ。私にこんな嫌がらせをする前に、もっと店を立て直す努力とかした方が、建設的だと思うんだがなぁ。」

弟「ひどいよ!姉ちゃん、ここんとこ、夕飯、砂糖水だけじゃん。
  それも、砂糖を冷蔵庫に隠して、ワイヤーで巻いて、錠をかけて。」

私「大丈夫だ。砂糖は高カロリーで一番手っ取り早く栄養補給ができたんだが。
  アイツ、みりんと醤油をしまうのを忘れているから。
  なんか、お吸い物みたいだけど、意外とうまいよ。

  あぁ〜、できれば、お吸い物として味わいたいなぁ。
  やっぱり、基本は水だから、お腹にたまらないんだよね。」

弟「お店の商品とか、お金を盗んだら!」

私「うん。でも、なぁ。それはなぁ…。
  なんか、意地悪に屈してしまう様で。」

弟「そんな事言ってる場合じゃないよ。アイツ鬼畜だよ。」

私「まぁ、とりあえず、キャベツを一枚ずつ剥いで食べてるから。
  生で食べれる野菜だから。
  でも、気を付けないと、商品が白いキャベツになって、勘付かれちゃうし。
  それに、直接棚から剥いで食べてるから、農薬臭いというか、苦くてつらいんだよね。」

弟「姉ちゃん。なんなら、俺が。」

私「やめとき。お前が手を汚す事じゃない。
  この塩をくすねるのも、大変だったろう?」

弟「俺、泣いて頼んだんだよ。
  姉ちゃんの砂糖を隠すなんて、辞めろって。

  父ちゃん、俺を突き飛ばして、親の言う事を聞くもんだって怒鳴った。
  あいつ、おかしいって。

  ご飯食べさせないだけでも、親として最低なのに。
  姉ちゃんが、こっそり砂糖水を作って飲んでいるのに気づいて、邪魔するなんて。」

私「お前、その時怪我しなかったか?」

弟「ちょっとすりむいた。」

私「無理するな。アイツは狂犬みたいなモンだから。
  ヘタに関わると、噛みつかれてけがをするだけだぞ。
  お母さんも悲しむ。
  お父さんがおかしいのは、お前のせいじゃない。」

弟「それでも、ヒドイよ。
  俺が子供だからって、父ちゃんがおかしいって事位は分かるよ。

  それでも、父ちゃんは俺の事をかわいがってくれてるから。
  ホントは、嫌だったけど、父ちゃんにくっついて、喫茶店に行って。
  ゆで卵を姉ちゃんの為にこっそり持ち帰ってくるのが精いっぱいだよ。」

(注:私の住む街では、いたるところに喫茶店があり、コーヒーにゆで卵がつくのがスタンダードなのだ。)

私「お前は賢いなぁ。
  小さいのに、他人の事に構ってやれて、優しい。
  あのお父さんからできた子供だとは思えないよ。」

弟「姉ちゃん…。
  あ、そうだ!お菓子も貰ってたんだった!
  俺、持ってくる。」

弟はいそいそと自分の部屋にお菓子を取りに、戻って行った。

再び、コタツに入って、弟が持ってきた、豆菓子をポリポリと貪る私。
これも、喫茶店で出される、コーヒーのおつまみなのである。

私「ふぅ…。
  小腹が膨れて…。
  なんか、余計にお腹が空いてきた気がする。」

弟「育ちざかりにゆで卵一個は少ないよね。」

私「あぁ、今なら、10個はイケル気がする。」

弟「卵十個食べたら、気持ち悪くなると思うよ。」

私「なぁ、知ってるか?K(←弟の名前)」

弟「何?」

私「古代ローマ人は奴隷を使って、贅沢な暮らしをしていたらしい。」

弟「へぇ。」

私「そんで、美食に明け暮れて。
  孔雀の羽を自分の喉について、食べたものを吐き出して、また食べ続けたらしい。」

弟「何!それ!?もったいない!」

私「遺跡に食事用の部屋が残っていて、そんで食べたものを吐き出すスペースもあったんだよ。
  これ、ホントの話。授業で聞いた。」

弟「何考えてんだ!?ローマ人。」

私「多分、何も考えていないんだろうな。
  ローマは一日にして成らずとか、諺があったけど。
  アレクサンダー大王もがっかりだよね。」

弟「アレ?かなんかは良く知らんけど、変な人達だね。」

私「『賢者は歴史に学び、愚者は失敗に学ぶ』って、原たいらさんが言ってたけど。
  大昔のローマ人は馬鹿やっていたって話だ。

  もったいないよねぇ。食べ物吐いて、また食べるって。
  欲張り過ぎなのか、なんなのか。

  そんでさぁ。
  聞いた話だけど、太った女の人は美容外科に行って、何十万、何百万かけて、ぜい肉を脂肪吸引するんだって。」

弟「え?痩せたいからそんな事するの?」

私「変だよね。美食がやめられなくて、太りたくないなら、動けばいいのに。
  それこそ、新聞配達のバイトでもすりゃ、お金も稼げて一石二鳥なのに。」

弟「お金も無駄遣いだよね。」

私「多分さぁ。私が聞いたこと、義務教育を受けた子なら、みんな聞いていると思うんだよね。」

弟「そうだろうね。」

私「結局、古代ローマ人の教訓を活かせていないってことじゃん?
  戦後日本の義務教育は失敗したってトコだな。」

弟「大きく出たね。そこまで言う事ないんじゃない?金持ちで一部の変わった人の話でしょ。」

私「もったいないよねぇぇ!太りたくないって、食べまくって!!
  こっちは、食べたくても、食べれんのじゃぁ!

  あぁ、腹減った…。

  腹減らない。
  腹減る時。
  腹減れば。
  腹減らせ。
  腹減った。
  腹減ろ!」

弟「姉ちゃん、何言ってんの?」

私「五段階活用を言ってんの。
  未然、連用、終始、連体、仮定、命令形ってのを中学に上がると国語で習うんだよ。」

弟「姉ちゃん、スゲーな。さすが、中学生って感じ。でも、腹減ろって変じゃない?」

私「命令形だからな。腹減り!か?
  はらへりはらへるはらへれはらへらはらへったはらたいらに三千点!」

私のお腹がぎゅーっと鳴る。

弟「姉ちゃん、不憫な…。」

私「それは、言わない約束よ?おとっつぁん。」

弟「おとっつぁんじゃないけど(笑)
  姉ちゃん、今日の姉ちゃんも明るい方だな。」

私「ふ。まあな。気が淀んでいるから、ちょくちょく降りて来てんだよ。」

弟「え?」

私「男が細かい事、気にしない。」

弟「姉ちゃんの言う事は、時々よく分かんないけど。
  これから先、どうすんの。」

私「食べ物は…。大丈夫だ。何とかなる。
 
  後は、うん。まぁ、勉強を頑張るだな。
  しかし、先立つものが…。特に文房具。」

弟「俺のお金貸そうか?」

私「うん。ありがとう。でもそれは一時しのぎだからな。
  なんとか、お金が作れんものか…。

  オヨネコブーニャンの気持ちが分かるなぁ。
  優しい声より、イモがいいって。

  はぁ。お腹すいた。

  …なぁ。K。♪ポケットを叩くと、ビスケットが二つ♪って歌あんじゃん。」

弟「あ、懐かしいね。ポケットからお菓子がたくさん出てきたらいいね。」

私「あれさぁ。きっと一枚しかないビスケットを叩いて、割った話だと思うんだよね。」

弟「え。」

私「そんでさぁ、二枚が四枚。四枚が八枚って、ボロボロに砕けていくって事だと思うよ。
  ありゃ、きっと腹が減りすぎて、たくさんあればいいのにって思い込んでポケット叩いているんじゃない?」

弟「そんな悲しい話だっけ…。子供の夢壊しすぎでしょ?」

私「いいか?K。アタシが考えるに、この13年生きてきて、この世の中で一番大事なのは、金だ。
  金さえあれば、たらふくご飯を食べられて、温かいお風呂に入れて、清潔な部屋に住めるんだぜ〜。

  愛と勇気だけが友達とか、悲しい事言ってる場合じゃないって。」

弟「えぇ!?」

私「ジャムおじさんが居なかったら、可哀想な首なしヒーローじゃん。」

弟「そんな怖い話?アンパンマンって。考えたこともなかった。」

私「あぁ、あれはジャムおじさんというスポンサーがいて成り立つ話なんだ。
  そんなんじゃ、腹はふくれねぇ。
  もっと、こう、無から有を生み出すような話が無いか…。」

弟「えぇ?」

私「う〜ん、あったぞ!ほら。
  どっかの貧しい国に、ある男が魔法の石を持っているとか言い出す奴。
  そんで、大きな鍋を貸してもらえませんか〜と言って、鍋に石を放り込んで。
  とびきりおいしいスープができます、と言ったら、村人が色々持ち込んできて、みんなでスープが食べれましたって話。」

弟「あ、あったね。そんな話。
  みんな腹ペコだったのに、おいしいスープが食べれて、仲よくなりましたって話。」

私「いいか。本当は魔法の石なんて、嘘っぱちだ。
  アイツはただの無銭飲食だ。」

弟「え。」

私「あれは、乗るか、反るかのばくちだったと思うぜ。
  普通なら、村人が怒り出すところを口八丁で材料を引き出して、結果オーライになってんだ。」

弟「そ、そうか。本当はただの石だったんだよね。」

私「でも、一人一人では、しけた材料しか、持ってなかったんだ。
  みんなで協力して、ダシのきいた、おいしいスープができたんだから。
  アイデア料として、食事を頂いても、構わないと思うんだ。」

弟「なるほど、協力して幸せになれたって、いい話なんだね。」

私「騙されちゃいけねぇ。
  そもそも村人が貧しかったのは、その国の政治がまずかったんだ。
  食料を蓄えておくとか、飢饉に強い品種改良をするとか、資源がないなら、加工業に精をだして、よその地域から、物を買える様に、力をつけていなかったから、貧しかったんだ。

  そこへ、頭のいい男が現れて、ひょっこりうまい事やったって話だ。
  ついでに、村人が魔法があると、信じれるだけ迷信深くて、科学が発達していなかったって事でもある。
  つまり、世界の狭い奴らだから、騙すことができたんだよ。
  いいカモだよ。」

弟「そ、そんな話?」

私「あぁ、この話はな。錬金術だよ。
  無から有を生み出す、そういう話だ。
  そう、意外性!魔法の石があると言って、堂々と村人に交渉したのが、良かったんだ。

  自分は何にも持っていなくても、アイデア一つで腹いっぱいになってる。

  なんだかんだ言って、村人も食料を持っていたんだよ。
  不安だから、出し渋っていただけってところを、希望のある話でつい懐が緩んだのさ。

  くくく。これは使える。
  いたよ、カモが!私の周りにいっぱい!!」

弟「姉ちゃん、なんか怖い。」

私「くくく。意外性だよ。そして希望を持たせるんだよ。ちょろいね。
  ウチがビンボーでも、学校に行けば、金持ちのガキがわんさかいやがる。」

弟「何する気だ?」

私「簡単だ。一発ギャグをするんだよ。
  おとなしい私が、奇妙奇天烈な事を言う。

  それも、試験に出そうな所を、一発で覚えてしまうような、インパクトのあるやつで。
  吹きだしたら、鉛筆や消しゴムを貰うんだよ。

  それで、ニアミスが減ったら、もうけもんだろ?
  親は塾に通わせてでも、子供にいい学校に進んでもらいたがってんだ。
  そーゆートコの子供なら、鉛筆の一本や二本ケチケチせずに渡すって寸法だ。

  これで、文房具を買うお金が無くても、なんとかなる。
  ノートが無くても、授業は受けられるけど。
  鉛筆が無いと、さすがに勉強できないからな。

  授業を耳で聞いて覚えるのも限度があるから。
  これで、課題もこなせるってものだ。」

弟「姉ちゃん、俺の鉛筆やるよ。」

私「ダメだ。オヤジが目ざとく見つけて、お前を殴るかもしれない。
  新品の鉛筆はマズいんだって。」

弟「なんで、姉ちゃん、こんなに苦労するんだろう。
  前世の行いでも悪かったんだろうか。」

私「前世の事は知らないけど。
  私は運がいいと思うよ。先進国に生まれたんだから。」

弟「この家に生まれついた時点で運が悪い気がするけど。」

私「それでも、勉強すれば、お金も稼げて立場も変わる。
  でも、そうだな。
  もし、私が生まれ変わるなら、贅沢は言わない。」

弟「何?普通の家庭とか?」

私「インドのマハラジャになりたい。」

弟「まはらじゃ?」

私「王様だよ、貴族だよ!カースト制の頂点だよ!

  象に乗って移動したり。
  宝石をジャラジャラつけて、着飾ったり。
  家来に鳥の羽で仰がせたり、口に食べ物運ばせたり。

  喰っちゃ寝、くっちゃねして、贅沢し放題、ワガママ放題したおすんだっ!」

弟「姉ちゃん…。
  俺も、戦後の義務教育は失敗したんじゃないかと思うよ。」



▲pagetop