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少女時代9

私「で、S、何をやらかしてんだ。ろくでもない事だろ。」

体育館の裏手には、道路との境目に生垣が植えてある。
緑の葉っぱがつやつやと輝き、秋風にそよいでいる。
目の前の友人Sはニヤニヤと笑って肩にかかった髪を手で払いのける。
本当にかわいい女の子なんだが、かげりがある。

友人S「なんだ、思ったより話が早いじゃない。
    あんた、ボンヤリしてるから、無理めかと思ったけど。
    うまく、男の人を気持ちよくさせれば一晩で結構稼げるよ。
    自分の頭と体とテクニック次第だ。」

私「なんで、そんな事をする。
  未成年だし。親は知ってるのか?」

友人S「薄々はね。でも、本気でアタシと関わらない。
    興味が無いんだよ。自分の子供にね。
    もう、慣れた。それが当たり前なの。
    お子ちゃまなあんたには良く分からないかな。」

私「親が知っていて、放置されてんのか。なんで。」

友人S「あー、親っていうより、女なんだよ、私の母親は。
    父親も血が繋がってない。
    アタシの事を色気づいたガキって見てるから、うっとおしがってんの。」

私「あんた、彼氏いるって言ってたじゃん。」

友人S「うーん、まぁ、彼氏ね。その中の一人って感じ。
    その人は優しいし、若いからね。彼氏にしてるだけ。」

私「彼氏の事、信じてないのか?」

友人S「男ってのはね。
    若くてかわいい女の子とHできればそれでいい生き物なの。
    あいつら、何にも考えてないよ。
    アタシも考えてないだけ。
    気持ちよければ、まぁ、いいじゃん。」

私「お前、売春なんて、今すぐ止めろよ。
  犯罪だし、ろくな事になんないぞ。」

友人S「…あぁ、そうね。
    警察の取り締まりもあるし、ホテルいくのも一苦労だわ。 
    何?アタシの事チクル?」

私「警察に捕まるとか、そんな事で言ってんじゃないよ。
  お前の体を心配してんだ。
  性病をうつされたらどうする?
  子供が出来たら?女ばっかりリスクがあるって言ってんだ。」

友人「ふーん。お子ちゃまなりに心配してんだ。アタシの事。」

私「小遣いなら、親に貰えよ。難しいかもしれないけど。
  なんなら、普通のバイトでもいいだろ。
  高校生なんだし。
  いつからそんな事するようになったんだ。」

友人S「14歳から。」

私「中2かよ。なんで踏みとどまらなかったんだ。」

友人S「小学4年の時さ。
    一人で、学校帰りに畑の小屋に男に引きずり込まれてさ。
    ヤられちゃったんだよ。
    もう、どうでもよくなって。
    なんか、そういう流れってあるよね。」

彼女は髪の毛を払いのけながら、クスクスと笑いながらそう告げた。

私「…その時、親には言ったのか?」

友人S「言ったでしょ。親は女だって。
    男のトコに行ってて、私は一人で夜を明かしたよ。
    親なんて、あてにしてない。」

私「…なんで、私、今、高校生なんだろ…。」

涙がこぼれてきた。止まらない。

友人S「は?何言ってんの。アンタ。」

私「なんで、私はあんたと今、友達なんだろうって言ってんの。
  …もっと、早くに友達になりたかった。」

友人S「はい?同じ高校に入ったから、友達になったんじゃん。」

私「ちげーよ。
  私がアンタと小学生の時、友達になってたら、一緒に下校して。
  男に襲われる事もなかったじゃないか。
  そうしたら、アンタは少し寂しいだけの小学生で済んだんだ。
  私が中学生の時に、アンタと友達になっていたら。
  売春なんて止めろって、言ってやったよ。
  そんで、アンタの親に、子供が苦しんでいるのをほっとくなって説得してやったよ。
  私が大学生か、社会人だったら。
  きっと、経験豊富でさ。
  今のアンタの気持ちを救う、いい言葉がかけられると思うんだ。
  私は、頭、よくないガキだから。
  今の私ではアンタにかけてやる言葉が見つからない。
  アンタの事を可哀相って言うのは簡単だけれど。
  それが、アンタにとって、失礼だって事ぐらいしか分かんないよ…。」
  
べそべそと泣き出してしまった。

友人S「…アンタ、タイムスリップでもしでかす気?
    そんなの、神様でもなけりゃ、無理じゃん。」

私「無理でも、何でも!
  友達が苦しんでいるのに何もできないのが悔しいって思ってんだよ。
  時間や空間を飛び越えてやりたいよ!
  うっ、…やっぱ、ごめん。
  私、小学・中学といじめられっ子だったから、
  同じクラスでも気づけなかったかも…。」

友人S「はい、はい。
    あんたはお釈迦様でも無いから無理なの。」

私「グシグシ、もう、売春なんて止めろよ。」

友人S「あぁ、警察のチェックが入りかけてんだよね。」

私「警察に捕まらないように、うまくやれとか言ってんじゃないよ。
  お前、誕生日前だから、まだ15歳だろ。
  義務教育ではなくなったけど、まだ子供じゃないか。
  親に甘えていていい年だ。
  そんな年に悪い事するなんて、お前のせいじゃない。
  お前は1mgも悪くないよ。
  世の中のがおかしいんだ。
  あんたが警察に捕まったら、私が訴えてやる。」

友人S「訴えるって、ドコに。」

私「最高裁判所だ!警察を訴えてやる。」

友人S「最高裁判所って、いくらなんでも飛びすぎデショ。」

私「何言ってんだ!
  子供をひどい目に遭わせる奴は刑務所行きだ!
  特にレイプをした奴は死刑でもいいくらいだ!
  あんたが警察に捕まったら、あんたを襲った男を捕まえられない警察を訴えてやる。
  そんで、あんたを放置してる親も警察につかまればいい。」

友人S「アンタ、メチャクチャ言ってるよ。」

私「子供のあんたは何も悪く無いって言ってんだ!
  子供を大事にするのは国家の最優先事項だ!
  最高裁判所で十分じゃないか!
  歴史をみてみろ。
  いくら文明が発達していても、子供を勝手にあつかう国家は滅んでいる。
  スパルタなんてガタガタじゃねぇか。」

友人S「…あんた、世界史得意だもんね。感心するよ。」

私「いや、竜堂始さんの受け売りだ。」

友人S「リュードー?誰、それ。」

私「小説のキャラだ。田中芳樹って作家の。」
  
友人S「…ま、アンタの本好きは置いといて。
    ほらほら、ぶちゃいくな顔がよけいぶちゃくになってるよ。
    ハンカチ貸したげるから、顔拭きな。
    メガネ持っててあげるから。」

彼女は自分のハンカチを差し出し、私のメガネを外してくれた。

私「うるさい。私が不細工なのは重々承知だ。
  ガキの頃から散々言われてんだから。  
  自分がちょっと、華やかな美人だからって言い過ぎだぞ。」

私は、自分が励ますつもりが逆に励まされてしまい、恥かしくなっていた。

友人S「あんた…。もしかして目が悪い?
    あ、メガネかけてるんだから当然か…。
    メガネ無しでどの程度みえてんの。」

私「?メガネが無いと自分の顔がかろうじて人間だって程度だな。
  近視と乱視が強いんだ。」

友人S「目が悪くなったのはいつから?
    悪口は男子から言われてたの?」

私「?小学5年からかな。
  男子にも散々言われたけど、むしろ女子のが多かったな。」

友人S「そうだろうね。
    アンタの周りはお子ちゃまばかりだったんだね。
    うーん、アンタよく男に襲われるって聞いてたけど。
    アンタみたいな色気の無いチンクシャが何でって思ってたけど。
    そいつらの気持ちがアタシ分かったわ。
    アンタには迷惑な話だろうけれど、そいつらアンタの周りのお子ちゃまより、よっぽど見る目あるわ。」

私「は?何言ってんの?意味わかんない。」

私が彼女の手にあるメガネを取ろうとしたら、彼女は腕を高くあげてしまう。

友人S「アンタ、人前で泣かない方がいい。
    アンタ、天然のタラシだわ。
    娼婦の才能がある、最強の処女だわ。
    …アタシ、さっきまでアンタにいい男を紹介してやろうって考えてたけど、止めた。
    アタシがアンタに女の悦びを教えてやる!」

私「は?女のヨロコビ?」

友人S「あぁ、ダメ、ムラムラしてきた。
    アンタの処女は私が貰う!!」

私「お前、何言ってんの。
  すぐエロい事言うから、親に軽く見られるんだ。
  いいから、メガネ返せって、ってなんで耳舐めるんだ!」

友人S「ほら、足開いて。」

私「何言ってんだ!ここは学校だぞ!」

友人S「じゃあ、体育倉庫のマットの上に行こうか。」

私「よけい生々しいわ!ふざけんな!!」


と、ばたばたと騒いでいたら人が通りかかって、舌打ちされながらもやっと解放されました。

高校1年の秋の話ですね。
彼女とは結局3年間一緒のクラスでした。
彼女は20歳の時に、この当時つきあっていた男性と結婚しています。
21歳の時、年賀状を送ったら、転居先不明で戻ってきました。
彼女らしいな、きっと元気にやっているんだろう、と思っています。

この記事を書こうとして、当時を思い出すと、何度も涙がこぼれました。
おかげで新品の地デジテレビが突然壊れ、未だに直っていません。

…もう、ほんと嫌です。
子供を大事にしてください。



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