私は再び、愛する彼らに内緒でアンダーグラウンドの世界へと飛び立ちます。
月明かりも星明りもない、暗闇の世界。
不思議と目は利き、周囲の光景を見ることに支障はありません。
赤黒い夜空の元、砂漠の谷間にそびえたつ、魔王が棲む宮殿の門扉前に佇みます。
私「ルシフェル、緑の姫君が会いに来た。
開門を願う。」
ヒュン、ヒュン!
どこからか、矢が飛んできます。
私の意識体の周囲にリバルを何重にも張っておいた加減で、私に命中せず、弾かれて落下します。
私「…相変わらずか…。それでは前回同様、正面突破だ。」
私は背中の羽根をはためかせて、門扉を飛び越え、正面玄関前に佇み、リバルを高速連続発射します。
そして、一気に高速で灰色の回廊まで飛び、弓矢も槍も壁面や天井が迫ってきてもやり過ごし。
トラップが発動した箇所はあらかじめ覚えていたので、一気に瞬間移動して、ほとんど無傷でやり過ごし。
トラップにかかっても、一気にリバルを連射して、全てをぶち壊して、短時間で、ルシフェルがいる大広間へと躍り出たのでした。
美貌の堕天使、ルシフェルは相変わらず、厭世感を漂わせて、玉座にふんぞり返っています。
私は構わず、ツカツカと彼の目の前に歩み寄って、佇みます。
私「ルシフェル、話がある。」
ル「またか、緑の姫君。
つくづく管理の甘い男達だな。」
私「ルシフェル。あなたが私達の間に割り込むのは、寂しいからだ。」
ル「…。」
私「あなたが寂しいというのなら。
私は、あなただ。
一緒になろう。」
ル「くだらない…。貴様らごときが何を言う。」
私「いいや、あなたは寂しいんだ。
寂しくなければ、私達に絡んだりはしない。」
ル「お前ごときが、私に対して言う言葉ではないな。
早く去れ。」
私「嘘だ。
ここに一人いて、私達3人が仲良くしているのがうらやましいんだ。」
ル「お前達が3人束になってかかっても、私にはかなうまい。
世迷言を言うな。」
私「そうかもしれない。
だが、私達が気になるのは、あなたが私達を愛しているからだ。
本当に何も力がない、取るに足らない存在だと思っているのならば。
私達が何をしようと、関心を持たないはずだ。」
ル「何を寝惚けた事を…。」
私「図星のはずだ。
私はたいした力もない未熟な天使だ。
むしろ、特別優れたところもない、ただの人間だ。
賢くもない。
だが、私は経験で知っている。
愛の反対は無関心だという事を…。
人はそれで死ぬ。
私達に関心があるという事は、その反対。
愛がある、という事だ。
そうでなければ、ミカエルやラファエルに抱いてくれ、なんて言わない。
あなたは寂しいんだ。
私とあなたは同じ魂。
私と、統合しましょう。」
ルシフェルは突然、目を見開いて立ち上がったかと思うと、巨大化しました。
私は思わず後ろに引いて、背中の羽根を羽ばたかせて、彼の正面にホバリングします。
ルシフェルさんの体から、まばゆいばかりの光が発せられ、目を開けていられません。
私は背中の羽根を羽ばたかせながら、手の平を目の前にかざして、彼に言います。
私「ルシフェル。
もう、統合の時代に入った。
このままではこの地球の生命体の維持が難しくなる。
私はこの星を守りたい。
それにはあなたの力が必要だ。
私と一緒に平和を守りましょう。
あなたを愛している。
私と統合しましょう。」
ル「お前ごときが何を言う。
だが、いいだろう。
受け取れ。」
すると、ルシフェルさんの体から、光の球がフワリと浮き出て、私の胸の前に飛んできます。
大きさは直径50cmぐらいの光の球です。
(統合を持ちかけた結果、これが、きっと彼の譲歩ラインなのね。
一部だけでも私に力を譲ってくれた。ありがとう。)
私が両手を伸ばして、その光の球を受け取ると。
光の球が私の胸に吸い込まれていきました。
すると、私の背中がキシキシと音を立てて。
私は16枚の羽を持つ、天使の姿に変わりました。
光が吸い込まれたその瞬間。
情報の塊が私の脳裏に閃きます。
ルシフェルさんが渡した、彼の魂の一部。
それは、私自身の魂となるのですが。
私の脳内に、その魂の情報が、万華鏡のように一気に炸裂して読み込まれます。
私は白い空間で両手を組んで、瞳を閉じて、世界の平和を祈り続ける、ピンク色の光を放つ、清らかな少女天使であったり。
私は黒い法衣と金ぴかの装飾品を身に纏った、エゴにまみれた宗教家の教祖であったり。
宗教団体の組織で、力の弱いものを牛耳り、虐めて自分のエゴを満たすだけに人を騙す男であったり。
その他にも様々な国の、様々な自分が、それぞれのフォーカスエリアで自分達のとらわれ領域で生息している。
そんな色々な次元に複数存在する、自分という魂のグループの情報が一気に脳内に流れ込んできました。
私「そんな…。馬鹿な!
ルシフェル!私はあなたとの統合を持ちかけたんだ!
この情報は、日本のどこかに住む、へミシンカーのものだ!
これは…、これでは、彼のヘミシンク能力が失われることになる!
これでは、彼はゲート・ウェイはおろか、ほとんどのCDが聴けなくなる!
わずかな、メタ・ミュージックしか脳が受け付けなくなるだろう…。
いや、ヘタしたら、ヘミシンクを止めざるを得ない!
誰だが分からないが、他の人間の能力を奪ってまで私は成長するつもりはないんだ!
この光を元の人物へ還して!」
ル「お前達の世界でいうところの、等価交換、という奴だ。
お前の能力が伸びる代わりに、お前の魂に連なるものが何かを喪う。
フェアじゃないか?」
私「そんな…!
そんなつもりじゃなかったの!
彼にこの能力を返して!」
ル「かつてお前を愛した男の能力だ。遠慮なく受け取れ。
くく。お前を見殺しにしたことを悔いている。
お前の為なら、悪魔にその身を差し出すだろう。
別に命までとるわけでもあるまい。
それにこの男には次の役割と能力が与えられる。
お前が気に病む必要はない。」
(いやに説明的だな…。)
私「それは一体、どういう…」
ラ「それ以上近づくな!」
私「ラファエル!」
振り返ると、ラファエルさんが大きなサークルの光の中で一対の翼をはためかせて叫んでいました。
全身をすっぽりと包むサークルはおそらくリーボールで、その中には光が満たされており。
この宮殿の暗闇の中で、眩いばかりに金色に輝き、それは一服の宗教画のように神々しい姿でした。
ラファエルさんは私に向って片手を伸ばして叫びます。
ラ「今すぐこちらに来るんだっ!」
ル「くくっ。大天使直々にお出迎えか。」
私はチラッとルシフェルの顔を見て、質問を断念してすぐにラファエルさんの元へと飛びました。
ラ「無事かっ!?
危害は加えられていないね?」
私の両肩を掴んだラファエルさんの剣幕におされて、私はただ、コクコクと頷くのが精一杯でした。
ル「くくっ。大天使といえども、ここの空気は毒だ。
じわじわと弱ってくるぞ。
早々に立ち去る事だな。」
私「え?」
ラ「質問は後だ。
今すぐ帰るんだ!」
ラファエルさんは私を抱きかかえると、一気にフォーカスエリアを上昇して、ローカル1で私を離しました。
ラ「はぁはぁ。すまない。
今日はここまで。
君が無事でよかった。
とにかく体を休めなさい。」
そう言い残して、ラファエルさんは姿を消しました。
そうして、私の背中には16枚の羽根が生え揃い。
色々謎を残したまま、私はメタトロン候補として、成長していく事になるのです。
