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夜明け前33

星明りの無い夜空を滑空して、砂漠の谷間にそびえたつ魔王の棲む宮殿を目指します。

暗がりのはずですが、何故か夜目がきき、その姿を視認することができます。

宮殿を見つけると、空中から意識体をルシフェルの寝室に飛ばします。

ル「…お前か、緑の姫君。…いつも唐突だな…。」

ベッドに横たわっていた彼が上半身を起こして、ため息をつきます。
音もなく、寝室の間接照明が灯り、ほのかな灯りに照らされた白銀の長髪の麗人はこちらを見ます。

私は彼のベッドサイドにふわりと降り立つと、背中の漆黒の6枚羽をしまい、その場にしゃがみこんで泣き出します。

私「ミカエル!ミカエルに会いたいの!うっ。」

ル「…。」

私「ミカエルが!今すぐミカエルに!」

ル「…。」

ルシフェルは何も言わずに私の両手首を掴んで自分の元へ抱き寄せます。

私「嫌!ミカエルが!ミカエルがいいの!」

泣きじゃくる私をよそに彼はキスをしながら、私の服を脱がし始めます。

私「ミカエル!ミカエル!」

ル「…ふぅ。面倒くさい女だな。
  こんな時刻に男の所に来て、目的は一つだろ。
  おとなしくしろ。」

私「ルシフェルなんて、嫌いだからっ!ミカエルがいいの!」

ル「ふ。いいからおとなしくしてろ。」

私「嫌!嫌!ミカエルはこんなキスしない!
  ミカエルはこんな抱き方しない!
  ミカエルがいいの!」

ル「…こんなに私を求めているのに?」

私「……。」

ル「優しくするから…。」

私「……。」








そうして、彼と体が離れると、私はベッドからスルリと降り立ちようとします。

すると、彼が後ろから手首を掴んで来ます。

ル「まだ行くな。」

私「用は済んだわ。帰る。」

手を振り払おうとするも、体をつかまれてベッドに引き戻されます。

私「用は済んだと言ったはずよ。離して!」

ル「この間は一瞬で戻られたからな。
  私にあんな事を言わせておいて。
  1回では帰さない。」

私「一回で十分よ。もうあなたに用はないわ。
  帰して頂戴。」

ル「…生意気な口を…。」

私「あなたなんて、ミカエルの代用品よ。
  用のない時は引っ込んでいて頂戴。離して。」

ル「…帰さない。」

私「離して。」


そうやって、ベッドから逃れようとするも、彼に押さえつけられて結局抱かれます。


私「…ルシフェル、気持ちいい…。」

ル「…私の妻になれ…。緑の姫君…。」

私「嫌よ。ならない。」

ル「ミカエルなど、やめろ。私のモノになれ。」

私「ならない…。私はミカエルの妻…。」

ル「こんなことをしていて、何を…。」

私「それでも、あなたのものにはならない…。」

ル「…愛していると言ってくれ…。」

私「…愛しているわ、ルシフェル…。
  今だけよ…。」

私は彼の背中に両手を回して、強く強く、抱きしめます。






そうして、二人の体が離れても、しばらくじっとしていたら、彼が私を抱き寄せて、腕枕をしてくれました。
彼も私も息が弾んでいて、肌が紅潮しています。

瞳を閉じて仰向けに横たわる彼の腕に納まって、彼の胸に自分の左手を乗せていると。
彼のビスクドールのような完璧な美貌の頬がばら色にそまっているのを見ていると。

初めてミカエルと結ばれた朝を思い出して、私は泣き出してしまいました。

私「うっ…。く。…う。」

ルシフェルは体を起こし、私の顔を覗き込みながら、頬をなでます。

ル「アイツがいいのか…。」

私「……。」

ル「お前に一言も無く姿を消したアイツがいいのか?」

私「……。」

ル「私といるのに、アイツを想って泣くのか?お前は。」

私「…う。…っく。」

ル「…存外残酷だな、お前は。
  私の気持ちを知っていながら、隠そうともしない。」

私「……。」

ル「これでは、とんだ道化だ。」

私「ルシフェル、ごめんなさい…。」

ル「謝るな。余計に惨めになる…。
  私の妻にならないか?緑の姫君。」

私「私は、それでも、ミカエルを…。」

ル「帰ってこない男を待つのか?こうして私に抱かれながら。」

私「ごめんなさい…。」

ル「もう、いい。何も言うな…。
  せめて、抱かせろ。」




そうして、彼は私を抱きました。
優しく、そして激しく。

それはとろけるような快楽を伴っており。
女性に生まれた事を感謝するほどの快感でした。



私はベッドサイドに腰をかけて、服を着込みます。
背後から、声がかかります。

ル「…帰るのか?」

私「ええ。」

ル「もう少し、ここにいないか?」

私「あなたも十分楽しんだはずよ?失礼するわ。」

ル「…お前、私などより才能があるぞ?
  ここの女主(おんなあるじ)にならないか?」

私「才能のあるなし、より、興味があるなしの方が肝心ね。
  関心無いわ、こんな所。
  失礼。」

私は長い漆黒の髪を両手で背後に払いのけ、背中に漆黒の6枚羽を出現させます。

彼はすかさず、私の手首をパシッと掴みます。

振り返るとルシフェルが真剣な顔で私に言います。


ル「また、来い。待っている。」

私は彼の手を乱暴に振り払い、冷笑を浮かべながら彼に言います。


私「気が向いたらね。」

そうして、一気に宮殿の外へ意識体を瞬間移動させ。
再びローカル1を目指して飛翔し続けます。


(まただ。
 また、彼に慰めを求めて、自分勝手に帰って来てしまった…。
 一体、何をやっているの、私は…。

 これでは泥沼にはまってしまう。

 彼に抱かれるたびに、情が移ってしまう。
 彼を救えるはずもないというのに…。

 私自身、自分の事で、手一杯だというのに…。
 あれほどの快楽を与えられては、逃れられなくなる…。

 そして、時々感じるあの視線。
 あれは、観察者の目だ…。

 何か腹に一物持っている…。

 気を許してはいけない。
 あの男は、まだ何かを隠し持っている。

 …どうして、こんな状況になってしまったの…?
 一体、いつになったら、ミカエルに会えるの?
 もう、会わせる顔もないというのに…。

 ルシフェルの孤独は癒されるの…?

 分からない。
 分からない事だらけだわ…。

 とにかく、地上に帰ろう。
 今は、あそこが懐かしい…。)


…ッドン!

…ギシィ。

障壁を抜けて、私は自宅のベッドに戻ってきました。
かすかにベッドを軋ませて肉体に意識体が戻ります。

すぐさま私は起き上がり、バスルームへと向います。
涙を流しながら…。



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