相変わらずの生活を続けていましたが、結局数日たつと、またルシフェルの元へと行きたくなります。
(…我慢だ、我慢…。
彼に会いに行く頻度が全然変わらない…。
とにかく、半日でも、数時間でも、会いに行く頻度を下げないと、ドロ沼にはまる…。)
そう、自分に言い聞かせますが、結局、休日の昼間に彼に会いに行きます。
私には暗い世界としか表現できない、闇の世界を漆黒の6枚の羽を羽ばたかせながら、白いローブ姿で、砂漠の谷間にある宮殿をめざします。
(…そういえば、この間、ルシフェルの前で泣いて暴れて…。
結局、彼は私に手を出さなかったな…。)
『…美しいな、緑の姫君、私のモノになれ。』
『またお前を抱けるとはな…。細い腰…。』
『同じ顔と体だ。我慢しろ。
…この私にここまで言わせるとはな…。』
『…ここに居て欲しい。』
ルシフェルが背後から腕を回して、私を抱きしめながら言ったセリフを思い出します。
『もう少し、ここにいろ。』
私は視線を落として、自分の胸元を見ます。白いローブが風を受けてなびいています。
全身をすっぽりと覆う、簡素なデザインで、刺繍もなにもありません。
ただ白いAラインの服を着ている、といった感じです。
(………この格好、パジャマみたいだな…。)
『お前か、緑の姫君。いつも唐突だな。』
(……もう少し、洋服っぽいのを着たいな…。)
すると、ふわっと私の体が光ったかと思うと。
一瞬後には、水色のドレスを着ていました。
そのドレスはデコルテを見せびらかすようなデザインで。
両肩を露にして、二の腕とバストでトップスを支えているようなワンピースです。
まるで花びらで体を包むような胸周りのデザインに対して、胸の下で切り替えがあり。
レモンイエローのプリーツが膝まで伸びています。
正面から見ると胸から両膝までの鮮やかなレモンイエローの三角形が見え。
その左右にまるでカーテンがたなびくように薄い水色の布が風を受けてひらひらと風を受けています。
爽やかな色合いからは清楚で少女めいた印象がありつつも、上半身の露出が多くて、セクシー路線で。
それでいて、上品で格式高い雰囲気の漂う、フォーマルドレスでした。
(え!何コレ?見たことないドレスだ。
でも、ミカエル好みのドレスだな…。
覚えがないけど、フォーカス100にある、ドレッサーの中から、転移させたのか?
私がセレクトしそうにない服だな…。
(注:ローカル1の私は胸が小さいので、ストラップレスブラでしか着こなせない服を着ようとは思わない。)
ルシフェルに会いに行くのに、ミカエルの用意した服を着るなんて…。
…なんで、洋服が着たいと思ったら、こんなドレスアップした姿になるんだ?
綺麗な服だな…今の私にサイズもピッタリだ…。
明るい色…黒髪でも、似合うかな…。
ルシフェル、ミカエルと好み一緒かな…。
…ハッ!何?今、何考えていた?
これじゃ、まるで私、ルシフェルの事を…。
いやいやいや、違うから!
今日は昼間に会いに行くから、ちょっとキチンとしただけ!
そう、いつも唐突に寝室に現れてたから、今日はキチンと部屋をノックして会いに行く為の、常識的な格好をしただけ!それがたまたま、このドレス姿だったってだけ。それだけだからっ!)
魔王の住む宮殿を視界に捉えると、私は拍手を打ち、意識を玉座の間へ向けて、一瞬で瞬間移動します。
フワリと、黒と灰色の大理石で設えられた、玉座の間に私は降り立ちます。
背中に羽を出現させたまま、巨大なパルテノン神殿風の柱の間を歩いていきます。
(ここには、いないのか…。
しかし、彼の部屋はこの奥だな…。
気配を辿って、会いに行こう。)
すると、なぜか上手く進むことができません。
(?なんだ?圧を感じる。アレ、誰か背中を触っている?」
背後を振り返ると、背中の羽から黒い羽根が一本抜き取られ、ペンの用に羽毛が上の状態で、するすると目の前に移動してきます。
男「ふ。緑の姫君か…。
こんな所を堂々と歩くとはな…。」
私「誰だ。」
男「ふ。見えていないのか?目の前にいるぞ?」
目を凝らすと、黒い陽炎のようなものが見えるだけで、私にはくっきりとした姿は見えません。
ただ、目の前で、黒い羽がクルクルと回転しているだけ。
どうやら、相手は羽の根元を持って、指でこするようにして、弄んでいるようです。
しかし、何者かが、私の顎をつかみ、そのまま持ち上げます。
私は何者かの値踏みするような視線に苛立ち、顎を横にふり、その手を振り払います。
私「気安く触るな。邪魔だ、どけ。」
男「ふ。強気だな。
しかし、美しい…。
この魂、あの方と同じ色。
そして、この輝き…。
堕天したとはいえ、これだけの魂を持つ人間の女が歩いていては、見過ごせないな…。」
私「お前に用はない。
そこをどけ。」
男「く。私の手を振りほどけないのに、そんな事を言っていていいのか?
ふふふ。美しいな、緑の姫君…。」
そう言って、私の髪の毛を掴んで、自分の手元へ引き寄せようとします。
私はその手をパシリと叩いて払いのけます。
私「不愉快だ。そこをどけと言っている。」
男「気の強い…。このまま進めると思っているのか?くく。」
私「仏の顔も三度まで、と言うだろう?
忠告はした。すぐさま下がれ。」
男「怒った顔も特段美しいな…。私のモノになれ…。」
私は両手を組み、目の前の黒い陽炎に向って言い放ちます。
私「ふ。私が欲しいのか?
お前、いい声をしているな…。
自分に相当自信があるようだが。
お前ごときを私が相手にするとでも?」
男「何!?」
私「ふ。いいだろう。
私にひざまずいて、愛を乞うなら、抱いてやらない事もないぞ?
さあ、口づけしろ。」
私は片足を目の前に一歩出し、カツーンと音をさせてハイヒールの踵を床に打ち鳴らします。
男「何を!」
私「んん?できないのか?
親切にも、私の愛玩動物になるというのなら、可愛がってやらない事もないと言っているんだ。
さぁ、ひざまずけ。
それができないなら、諦めろ。
所詮、その程度の覚悟で緑の姫君を抱けると思うな。」
男「…貴様、人間の分際でっ!
この私の姿を見ることもかなわない、半端者の分際でっ!!」
私「くくく。
語るに落ちたな。
そうだ、お前の言うとおり、半端者の人間だ。
それでもお前達の主の姿はくっきりと見て取れるぞ?
それだけ、お前の波動は次元が低い、という事だ。
文字通り、眼中にないんだよ。
分をわきまえるのはお前の方だ!」
男「貴様!言わせておけば、調子に乗って!!」
私「ははは。怒ったか!?
弱い犬ほど、よく吠える、とはよく言ったものだな?
私が欲しいんだろう。
お前の憧れる、あの方とやらと同じ魂を持っている、私がうらやましいんだろう?
くくっ、それだけじゃない。
パワーズ(能天使)の魂も持っている。
その上、人間の女だ。
私と交われば、お前に力を与える事ができるぞ?
お前の目論見など、お見通しだ!
私に愛嬌を振りまく度胸もないくせに、気安く私の邪魔をするから恥を掻くハメになる。
下がれっ!」
男「貴様っ!」
私「キサマ、ね。お前の名はなんと言う?」
男「…っ!」
私「名乗れぬか…。真名をとられては、縛られる。
くくく。ご主人様の愛人をツマミグイするには、お前は弱すぎだ。
名を知られて、平気でいられるには、私を殺すか、主を殺すかしなけりゃならない。
半端者の、弱虫は引っ込んでいろ!」
男「…っ!私を本気で怒らせた事を後悔させてやる…。」
私「ふ。逆ギレか?
自意識過剰で、頭の弱い男だな。
口で言っても分からないとは、呆れるを通り越して、不憫な奴…。
堕天したとはいえ、お前ごときが大天使メタトロン候補だった私にかなうとでも?」
私は片手を振り上げ、その十センチほど上に無数の真空の刃を高速回転させます。
男「…っ!覚えていろっ!!」
私「はははっ!いつの時代も負け犬の遠吠えは陳腐だなっ!!
覚えてなどやらないぞ!?
名も名乗らない卑怯者の為に、私の頭脳を使うのはもったいないからなっ!!
あぁ、そうだ、親切ついでにもう一つ。
極上の女を手に入れるなら、命がけで来い!
いくら力が強くても、手間隙を惜しんでは女はなびかないぞ?
足元を見られるのがオチだ。
それくらいなら、がむしゃらで向うんだな。
わざわざ器の小さな男の処世術を教えてやったんだ。
感謝の言葉くらい聞きたいが、どうだ!?」
両腕を組んで、仁王立ちした私の目の前で、男の気配が掻き消えます。
私はそのまま、歩を進め、ルシフェルの気配がする方向へと歩を進めます。
(今の男もおそらく、堕天使だったんだろうな…。
憐れな…。
しかしおかしい…。なんだ?今の私の言動は…。
こんなキャラクターではなかったはずだ。
なぜ、こうもスラスラと毒舌になれる?
…そうだ、そういえば、ルシフェルとの行為の後も、毒を吐いていた。
気がつかなかったが、これは私自身のキャラクターと異なる。
これは、アンダーグラウンドの磁場に影響された結果か?
それとも、ルシフェルの人格が混ざっている?
あるいは、その両方か…。
そういえば、最近のルシフェルはなんだか人間くさい。
もしかして、私の人格が混ざっている?
そうだ、ルシフェルと会った後、ローカル1の私は頭脳が明晰になっている。
もしや、オーラが混じるという事は、相手の人格や思考パターンも混ざる、という事か?
ルシフェルに会ったら、試してみよう。
彼がさらに人間的な行動にでるか、どうかを…。)
扉の前に到達します。
コンコン。
ノックしてから、勝手に扉を開いて、室内へ入ります。
私「邪魔をする。緑の姫君が来た!」
白地に金の豪奢な内装の洋間の奥に設えてあった、テーブルに向っていた、ルシフェルが振り返ります。
ル「お前、いつの間に…。」
私「体が乾いた。私を抱け。」
ル「お前、唐突だな。私の都合はお構いなしか?」
私「忙しいのか?
なら失礼する。
替わりのお前の部下を2〜3人ご馳走してもらうぞ?
一人では満足できないだろうからな。」
そう言って、くるりと踵を返して、部屋を出ようとすると。
慌ててイスから立ち上がったルシフェルが私の腕を掴んで引き戻しにかかります。
私「無理に付き合わなくてもいいぞ?
ちょっと迷宮を歩けば、お前の部下が喜んでお出迎えしてくれるだろう?」
ル「待て!
とにかく早まるな。」
私「私をご馳走を見る様な目で見てくるから、こちらも勝手に物色させてもらうだけだ。
私を接待してくれるのは、何もお前でなくても構わないぞ?」
ル「いいから、ここにいろ。
私を困らせるな。」
(やはり、人間くさい行動にでたな…。
しかし、面白い。もう少しからかうか。)
私「そうか。ここに居て欲しいか。」
ル「そうだ。」
私「では、邪魔するぞ?」
私は勝手に応接セットのソファにドカッと腰掛けます。
ルシフェルはベッドに行くとばかり思っていたようで、無表情ですが、面食らっているようです。
私「ふぅ。つまらないな。ここまで来るのに、あれでは、余興にもならん。」
ル「何?」
私「高級ペットを飼うのなら、防虫剤も用意しておけ。」
ル「何の話だ?」
私「可愛いペットに悪い虫がついては困るだろうという話だ。」
ル「?」
私「お前も大変だな。
アンダーグラウンドでも一枚岩というわけにはいかないか。
組織の長というのも意外と気苦労が耐えないものなんだな…。」
ル「一体、何の話をしている。」
私「女を歓迎するには、サービス精神が足りない、という話だ。」
ル「お前は何をしに来たんだ。」
私「それはこちらのセリフだな。
さんざん人を口説いておいて、茶菓子の一つも出ないのか?」
ル「…お前、いつも飲食を拒むじゃないか。」
私「はぁ〜、これだから、陰気な所に暮す輩というのは気が利かない。
人をもてなす心得というものが欠如しているな。
酒を用意しろ、とまでは言わないが、茶菓子や果物ぐらい用意しとけ。」
ル「……今日も機嫌が悪いのか?」
私「大体、私を妻に娶りたい、というワリにはこの扱い。
女が喜びそうなものの一つでも用意しておくのが筋じゃないのか?」
ル「…。」
私「女は綺麗で、キラキラしていて、快適でいい気分にしてくれるような事が好きなんだ。
お前の部下、どうせ、美形ぞろいだろう?
どうせなら、ずらっと並んで、歓迎してみてくれてはどうだ。
おそろいの衣装でも着てな。
照明も明るくして、音楽でも流して。
そうしたら、私以外の女も喜んで、この迷宮に遊びにくるぞ?」
ル「お前はここを宴会場にでもするつもりか?」
私「あぁ、いいねぇ。
こう殺風景で、陰気だと性格も悪くなるってものだ。
有線でも流したらどうだ?」
ル「ゆうせん?」
私「リスナーがリクエストした歌謡曲を流してくれるサービスだ。
お年寄りのお前向けにアナログなBGMサービスを説明してやったぞ。」
ル「お年寄り…。」
私「あぁ、1000歳以上なんだ。
あまんじてお年寄りの看板を背負え。」
ル「…とにかく、音楽があればいいのか?」
私「お前、今、聖歌隊を想像しただろう?
ふぅ〜、悪かった、私が悪かったよ。
燕尾服を着込んだ輩に駄菓子屋に行って、イカっぽい十円の菓子をパシリに行かせる様な真似をして。
歌謡曲自体がよく分からないんだな。
可哀相に。今度私がなんか歌ってやるよ。」
私は両手を開いて、おおげさにため息をつきながら、頭を左右にふりつつ一気に話し続けます。
ル「…お前が私をからかっているのはよく分かった。
さっさと、ベッドに行くぞ。」
私「うふふ。可愛いなぁ。」
ルシフェルが私の手首を掴んで、寝室へと連れ込み、ベッドに押し倒してきます。
唇を寄せてくる彼の口元に手の甲をあてて、彼に尋ねます。
私「なぁ、ルシフェル。私はかわいいか?私が好き?」
ル「あぁ。」
私「この変態!
自分と同じ顔した女が好きだなんて、ナルシストもいいところだ。」
ル「…!」
私はルシフェルの端正な顔にそっと手をあてて、なでます。
私「それにしても、綺麗な顔…。」
そういって、私は彼のほっぺをギュッと掴みます。
ル「何を!」
私「ねぇ、この顔、本物?
あなた、魔王なんでしょう?
これって、魔法かなんかで作ってない?
やだわぁ〜、年寄りの若作りって!」
ル「お前も同じ顔だろうが!」
私「えぇ〜?心外〜。私の方が、若くてかわいいわよ。
第一、あなた、表情が乏しいのよ。
これじゃ、何を考えているんだか、わかりゃしないわ。
いきなり私を襲ってきて、このムッツリスケベ!
あなた、私の前で笑ったのって、私の首を絞めていた時だけじゃない。
死ぬトコだったわ!
本当に性格悪いのね。最悪〜。
それより、よくも私の事を近親相姦好きとか言ったね?
私に言わせりゃ、お前の方が、よっぽど変態だ!」
ル「根に持つな。」
私「そうそう、近親相姦といえば。
お前、私の体を使って、ミカエルとHしたじゃないか?
くくく。
双子の兄弟なのに、いやらしい。」
ル「それは…。」
私「それだけじゃない。
ラファエルさんにあんなに絡んじゃって!
ミカエルよりよっぽど濃密に睦みあっていたじゃないか!
その前に、徹底的に彼の精神を攻撃したな。
あぁこの場合口撃と言った方が適切か?
いやらしい…。
彼と神学校時代、何があったの?
虐めて虐めて、へこんだ彼を抱いて楽しんでいたわね。
あなたの方が、ホモなんじゃないの?
自分の弟の親友をあんな手段で絡めとって…。
本当は、彼の事が好きだったんじゃないの?
それが、神に仕える天使のすること?」
ル「………。」
ルシフェルの端正な白い顔に赤みがささります。
私「図星ね。
何?私が彼らに可愛がられていて、うらやましかったんでしょう?」
ル「…黙れ。」
私「あぁ、図星ね。なによ、魔王っていっても可愛いものね。」
ル「黙らないと…。」
私「何よ。どうするの?なんなら、帰りますけど?」
ル「…思っていたのと、違う…。」
私「何?なんか言った?
前世が聖女だったからといって、現世の私が清廉潔白な人格だとでも?
幻想もいいところね。
現実を見ていないわ。」
ル「…随分機嫌が悪いな。」
私「ふふ。思っていたのと違う?
どんなのを想像していたのかしら?
あなたと違って、私はいじめなんかしないわよ?」
ル「今のはどうなんだ。」
私「虐めは嫌いよ。
でも、いじめっ子を虐めるのは大好き。
これは教育的指導よ。
たまにはガツンと言ってやるのも愛情ってものよ。
自分が一番強いと思い込んでいるお馬鹿ちゃんは叱られて初めて気づくんだから。
本当に清廉潔白なのは、ラファエルさんよ!
あんなに優しい彼を虐めて!!私が指摘してあげているんだから!
ミカエルも虐めて!
反省しなさい!!」
ル「…お前、私に抱かせない気か?」
私「いいえ?」
ル「お前、言っている事とやっている事がメチャクチャだぞ?」
私「何を言っているの?
これは慈善事業よ?
あなたは私にヒドイ事をしたんだから。
贖罪のチャンスを与えてあげているの。
感謝してもらいたいくらいだわ?」
ル「…どっちなんだ。」
私「ふふ。可愛い。私が欲しいんでしょう?
いいわよ。可愛がってあげる。」
そうして、彼の首に手を回して、キスをします。
(こうして、肌を重ねるたびに。
どんどん親しみが沸いて来る。
まずい、彼はミカエルの兄なのに。
いけないと思いつつも、やめられない。
気持ちいい…。)
体が離れると、私は水色のドレスに着替えます。
ル「緑の姫君、私の…」
私「くどい!妻にはならない。
こんな陰気な所にいては、私の性格が悪くなる。」
ル「…お前の方が、私よりここの主として資質がありそうだが。」
私「御免こうむるわ。
でも、セックスフレンドにはしてあげる。
じゃね。」
私は一瞬で宮殿の外へと瞬間移動して。
そこから再びローカル1へと飛翔し続けました。
