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夜明け前19

気づくと朝だった。

カーテンの外が白んでいる。
いつの間にか眠っていたようだった。

まだ朝は早く、道路を行きかう車の音がほとんど響いてこない。

(朝…。あんな状態でも、眠れるものなんだな…。)

しばらくベッドの上で放心する。

寝返りを打つ。
腕がパタリとシーツの上に倒れ、それを無気力に眺める。

のそりと起き上がりトイレへ行く。
頭の芯が重く感じ、足取りが怪しい。
トイレのドアを閉じ、再びベッドへ戻ろうと歩き始める。

(…何が奇跡だ…。
 何が、天使だ…。
 とんだ、道化だ。

 よくも『生きているだけで奇跡』だなんて、ブログに書けたものだな。
 一体、自分を何様だと思っているんだ…。

 …ミカエルを殺しに行っておきながら…。
 読者はがっかりするだろう…。
 これが私の本性なんだ…。
 …もう、何もかも、どうでもいい…。)

ベッドに倒れこむ。

頬を涙が伝う。
静かに、静かに涙が流れる。
瞳を閉じる。
もう、泣き声も漏らさない。
ただ、流れるに任せる。

それは『絶望』だった。
何も、望まない。

何も、望まない…。

何も、考えない…。

ただ、あるだけだった…。

自分のかすかな呼吸音を聞きながら。
私はいつの間にか眠っていた。

ふと、目を覚ます。
フイに理解した。

目を覚ます直前のビジョン。
それは幼い日の私が父親に足首を掴まれ、何度も頭を床に打ち付けられる姿だった。

(そうか!これは…!
 これは、レトリーバルだったんだ!

なぜ、私の過去生が、布教に絶望して自死したアーナンダだったのか。
なぜ、私の過去生が逆さ十字に磔されたペテロだったのか。
なぜ、磔され、火炙りにされたジャンヌだったのか。
なぜ、私が父親に虐待される女児だったのか。


受難の連鎖。

それは、生まれ変わり、バージョンを変えて追体験をし。
それによりレトリーバル(浄化)を行う為だったんだ!

ペテロの受難をジャンヌで軽減し。
ジャンヌの受難を子供時代の私で軽減し。
私の受難を大人になった私がレトリーバルする。

それこそが何者かに全て計算された、壮大なレトリーバルだったんだ!

だが、その代償はあまりに大きい…。

ミカエルへの殺意はもう無かったが、彼を嬲りものにした…。
彼は無事だろうか…。

それをうかがう術を知らない。

今頃彼を気遣うなんて、どれだけ身勝手なんだ…。

もう、彼に会えない…。)


私「ミカエル…。」

一言つぶやき、再び涙を流す。

(もう、時間は戻らない。

 以前のようにはならない。
 それどころか、彼は死んでしまったかもしれない…。)

涙を流し続ける。
ふいに、私の左手がするすると動き、私の頭をなで始める。
そのなで方はミカエルのものだった。

「ミカエル!」

顔を上げる。

ぼんやりとミカエルの姿が滲んで見える。

私「ミカエル!無事だったのね!
  ごめんなさい…。ごめんなさい!うっ。」

ミ「君は、悪くない…。」

私「いいえ、悪いわ。
  あなたの方がつらかったハズなのに…。
  私が自分から地上に行ったのに…。

  自分で死を選んだくせに…。
  私はただ、痛い思いをしただけ。

  それをあなたは見守り続けていた。
  愛する者が苦しむ姿をただ、見守り続けるあなたの方がよっぽど辛い。

  貴方は強いわ。そして、私より苦しんだはず。
  それを棚に上げて、貴方を逆恨みした…。
  ごめんなさい…。
  怒りに身を任せて、貴方に取り返しのつかない事を…。」

左手は優しく私の頭をなで続ける。

ミ「君は悪くない。
  君が怒るのは当然だ…。
  私なら、大丈夫…。
  まだ、朝は早い。
  もう少し、休みなさい…。」

私は彼の言葉に安心して、ウトウトと眠りの世界へ引き込まれて行った。



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