ふと、我にかえると、この先、どうやって進めばいいか、という問題に気づきます。
私「しまったぁ!こんな事なら、サラに意識体を飛ばしてもらえばよかった!
ちっ!仕方ない。サイコメトリーが使えない以上、他の手段で進むか。」
私は突如塞がれた、回廊の先へと向き直ります。
勾配がかかっており、先ほどまで、この方向に向って歩いていたのですから、とりあえず、ルシフェルはこっちの方向にいるはず。
私「エネルギー・バー・ツール!」
私がそう叫ぶと、突如私の手元に、エネルギー・バー・ツールが出現します。
長さ50cmほどの、先端に四つの丸い球がついたデザインのトロフィーのような形状です。
癒しの光を放つ、アイテムです。
(これは癒し用アイテム。今必要なのは攻撃用アイテムね。)
私「ソード!」
手元のエネルギー・バー・ツールが瞬いたと思うと、一瞬後に、私が握っていたのは一振りの剣に変化しています。
金属製の平打ちの剣で、例えがアレですけど、墓場にある卒塔婆みたいなフォルムをしています。
中央には一筋の隆起があり、ちょうど真上から見下ろすと、菱形に見える刃物です。
私「えいっ!」
私がその剣を灰色の石の壁に向って、振り下ろすと、バキッっと壁が切り崩されて…。
なら、格好よかったんですが。
ガギィイン!
と刃の先端が、壁に刺さって、動かなくなりました。
私「んしょ!んしょ!」
私は剣の柄を両手で掴んで、片足を壁にかけて、必死こいて剣を引き抜きます。
ガリガリッ。
剣を左右に振って、なんとか壁から引き抜きます。
私「はぁはぁ。なんじゃ、こりゃ!
全然刃が立たないじゃないか!
くそ。ミカエルさんが、私の能力は戦場において真価を発揮するとか何とか言っていたけどっ!
自分の前世なんて、1mgも思い出しとらんっちゅーの!
前世が戦士だか、テロリストだか知んないけどっ!
生まれる前の事まで、責任持てるかぁぁ!
ってか、今思い出せなくて、どーする!
平和な法治国家日本でぬるま湯の生活を送ってきた私に戦闘能力を求める方が、無茶だっつーの!
シビリアンコントロールの行き届いたこの国で、戦闘訓練を受けている奴なんて、自衛官か警察官ぐらいだろっ!
私にあるスキルは兼業主婦歴ぐらいだっつーの!
これじゃ、まるでなまくら包丁で、生のカボチャを切るようなもんだ!
大体、最近、カボチャ切る時は、レンジでチンしてからだし…。
はっ!マイクロウェーブね!」
私は金色の柄を握り、目の前のソードにイメージを送り込みます。
私「いけぇ!」
ガリガリガリガリッ!
私が再び壁に向って剣を突き立てると、金属の剣が壁に差し込まれていきます。
再び私は剣を自分の方へと引き抜くと、剣の幅ほどの穴が開いています。
私「よしっ!」
私は先ほどの少しはなれた箇所に、再び剣を突き立てて穴を開けます。
穴の周囲にピシピシと亀裂が入ります。
まるで夜空の星に線を引いて、星座に見立てるような感じでそれを何度か繰り返します。
これって、壁面に剣をつきたてているんですが、まるで道路工事のドリルみたいな感じですよね。
私「ちょっと見た目と用途がアレだけど、要は使えりゃいいのよ!」
穴を開け続けて、大体大人一人がギリギリ通れるほどの亀裂が入っているのを見届けて。
私「うりゃぁっ!」
私は思い切り、壁面を蹴り飛ばします。
ゴシャア!!
すると、向こう側に石壁が崩れるように倒れこみ、砂煙を巻き起こします。
すかさず、リバルを連続発射させて、向こう側に敵がいた場合、私に攻撃が加えられないようにします。
砂煙が納まっても、壁の向こう側からなんの気配もしません。
私はまず、エネルギー・バー・ツールで作った剣を穴のすぐ側の壁に立てかけます。
私は頭を下げて、体を屈めて、隙間に体を通そうとします。
足元まですっぽり包み込む、ローブのようないでたちでしたので、両手で裾をたくし上げて壁の穴に足を通します。
私「天使ルック、失敗よ!ミニスカを提案するわ!
これじゃ、戦いにくくて、しょうがない!
って、あぁ!穴が小さすぎて、背中の羽根が引っかかるっ!」
私が穴を通過しようとしてマゴマゴしていると、背後からガシャン!という金属音がします。
私「シールド!」
私は穴の前面にエネルギー・バー・ツールを転移させ、まずは盾に変化させます。
私「エネルギー変換ボックス!掃除機バージョン!」
私の背面に黒いマーブル模様の石棺が突如現れ、ひとりでにゴゴゴッと棺の蓋が外され。
コウッ!という音と共に、背後に佇む、アンデット・モンスター達を吸い込まれます。
私は背中を屈めて、スカートの裾を両手で持ち上げつつ、壁に背中の羽根を引っ掛けながら、背後をふりかえりつつ高笑いをします。
私「ふはははは!これも、作戦だっつーの!(←ウソです。)
お前の考える事なんて、お見通しだと言っただろうが!
このダンジョンを考えたのも私(ルシフェル)なら。
それを攻略するのも私(緑の姫君)なんだよ。
ねちっこい、いや、もとい、用意周到な罠をしかけやがって!(←結局自分の悪口だと気づいた)
顔を洗って、待っていろ、ルシフェル!
って、あぁ!羽根が引っかかる!
多すぎだってば!」
なんとも不恰好なまま決め台詞を吐き捨て、私は次の回廊へと進みます。
すると、再び、回廊全体が回転して、別の空間へ移送されます。
まるで、ルービックキューブを回転させるような感じですね。
私は空中でホバリングして、やり過ごそうとします。
ズシャァァアァァアアァァ…。
今度は頭上から大量の砂が降りてきます。
私「ぺぺぺ。砂?砂くらい…。」
空中にホバリングしながら、足元を見下ろすと、砂が積もっており、空中にはもうもうと砂煙がまいあがっていました。
私「まさか。」
カチリ。(←着火音)
ボフッ!!
私が閉じ込められた空間が一瞬で爆発します。
しかし、着火音と同時に私はウィンディーネを召還(よ)びだして、大量の水を放出させていたのでした。
私はずぶぬれになりながら、空中にホバリングを続けています。
強い雨が室内に降り注ぎ、砂煙もろとも、砂を床に固めていきます。
私「粉塵爆発か。
しかし、こちらには水の精霊がいるからな。
不発に終わったぞ、ルシフェル!
顔を洗って待っていろと言っただろう?
超絶美形だからといって、容赦はしないぞ!ルシフェル!
ケホケホ。
あ、もういい。ウィンディーネ。ありがとう。」
ウ「しかし、お怪我をなさっておいででは?
火傷をしていらっしゃいます。」
私「あ、大丈夫、大丈夫。
アファメーションで直すから。
たびたび悪いね、呼び出したりして。」
ウ「お役に立てて、何よりです。失礼いたします。」
私は顔をつたう大量の水が口に入って、むせそうになりながら、ウィンディーネにお礼を言い。
ウィンディーネの気配が消えるのを見届けてから。
両手でくしくしと顔を撫でながら、深呼吸をします。
そして、おもむろに両手を胸の前で打ち鳴らします。
パンッ!
私「コンセントレーション!
私の体は一切の損傷を受け付けず、たちまち健やかに再生する。
私の疲労は一瞬で回復し、頭脳は聡明さを取り戻す。
私の注意力、観察力、洞察力は向上し、問題解決能力が最大限に発揮される。
アーメン!」
私の頭上から、白い光が降りてきて、意識体がすっぽりと収まるような光の柱の中に佇みます。
ずぶぬれだった衣装もすっかり乾いてすっきりした私は、さらに歩を進めます。
そして、再び回廊を進むと、槍が降ったり、矢が飛んできたり、床が抜けたり、壁が迫ってきたり、天井が落ちてきたり。
その都度、アファメーションで、体を再生しつつ、攻撃をかわしていき。
まぁ、覚えるてるのも面倒なトラップを2・30潜り抜けて、とうとうラスボスのルシフェルの玉座の前に辿り着きます。
彼の玉座は高い位置にあり、大広間には黒色の大理石のタイルが嵌め込まれています。
まるで、ギリシャのパルテノン神殿のような巨大な石柱が天井を支えており。
所々に黒いモヤの様なものが蠢いています。
私は自分の体の周囲に何十ものリバルを張って、彼に挑みます。
私「とうとう辿り着いたぞ、ルシフェル。
茶のしたくはできているか?」
絶世の美男子、ルシフェルさんは、相変わらず玉座に尊大に腰掛けて、ふんぞり返っています。
黒を基調としたローブのような衣装で、複雑な飾りがついています。
まるで、どっかのロックバンドの衣装をすごく上品にした感じでしょうかね。
足を組み、肘宛に肩肘をついて、頬杖をつきながら、私を冷めた表情で見下ろしています。
長い白銀のストレートヘアは、腰掛けた彼の膝元まで、届いており、ごく淡いマスカットグリーンの瞳は倦怠感に包まれているように感じます。
ル「緑の姫君か。」
私「謝れ!ミカエルさんとラファエルさんを傷つけた事を!
そして、私の体を乗っ取った事もだ!」
ル「聖女も随分様変わりしたものだな。」
私「セージョだかセージだか知んないけどっ!
正邪善悪の判断は10歳の子供でもできるのよ!
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえっていうでしょ!」
ル「意味が分からないな。お前は何をしに来たのだ。」
私「何度も言ってるでしょ!
あんたをぶっ飛ばしによ!
彼らの精神をいためつける発言を取り消せ!
なんの権利があって、彼らを傷つけるの!
許せないわ!」
ル「ふ。怒りか。」
私「当然でしょう!?
愛する者を傷つけられて、怒らない人なんていないわ!
謝るなら、許してあげる。
今後一切、私達に割り込まないで!
謝らないなら、怒りにきたのよ!
あんたがHの最中に割り込んできて、ダーリン達がEDになったら、どうしてくれんのよ!
新婚間もないのに、夫婦の営みの邪魔をして!
Hができないと、エネルギーチャージができなくて、震災のレトリーバルが出来なくなるでしょう?
私がハイパーレスキュー隊なら、あんたがやっている事は、公務執行妨害よ!
迷惑してるのは私達だけじゃないのよ!
あんたが、高次の存在だか魔王だか知んないけどっ!
これは私からの教育的指導よっ!」
ル「恐れだな。」
私「私はあなたを恐れないわ!
謝らないというのなら、ぶっ飛ばしてやる!」
ル「まだまだだな。
笑止。
怒りの感情で私にはむかうとは。
去れ。」
彼が片手をあげて、私に向って手の平をかざすと。
気づくと、私は砂漠の谷間にそびえたつ、魔王が棲む宮殿の門扉前に佇んでいました。
私「はっ!何!ここは門!
最初からやり直しなの!?
私はロールプレイング・ゲームは嫌いなのよっ!
くそ、何度でも殴り込みをかけてやる!」
そう言って私は一歩を踏み出そうとすると。
体が震えて、崩れ落ちてしまいます。
目が回って、クラクラとしていると。
ギシィ!
気づくと、ローカル1のベッドの上に意識が戻っていました。
私はイヤフォンを外し、怒りに震えながら、体を起こします。
すると、ベッドについていた手が震え、体がベッドからズリ落ちます。
ずる、ぺタ、ごち。
私は頭から床の上に落ち、足は奇妙に歪んだまま、ベッドに残っています。
体がピクリとも動かせません。
まるで、操り糸が切れた、マリオネットのように、しばらくその状態でいます。
私「うぐぐ。うぎぎ。」
十分ほどたったでしょうか?何とか足を床に下ろして、床の上に敷いてあるラグの上にうつぶせになります。
しかし、その状態でも、やはり身動きが取れません。
私「くそ〜!ルシフェル。今度会った時、ぶっ飛ばす!」
…結局、ぶっ飛ばされたのは、私の方でした。
私が、自宅のラグの上で悔しがっていると。
するり、と背後から誰かが私を抱きしめて持ち上げます。
振り返ると、ラファエルさんが厳しい表情をして、私の意識体を抱き起こしていました。
私「あ、ラファエルさん。」
ラ「こんな状態にまでなって!
私の言う事を聞かなかったね!
こっちに来なさい!」
私「ラファエルさぁ〜ん…。」
温厚な彼の怒ったところは初めてで、その剣幕に押されます。
…その後のやりとりは、覚えていません。
気づくと、私はラグの上で、涙を流しながら。
私「ラファエルさん、ごめんなさーい。
許してください。
こんな事になるとは思わなかったの。
ごめんなさーい。」
とうわ言のように言って、瞼を手でこすりながら、目を覚ましたのでした。
教訓:普段温厚な人物を怒らせると、本当に怖い。
いや、この結論でいいのか?
…ルシフェルさんとのやりとりは、まだまだ続きます。
