再び眠りから覚めた私は、目の両端についた涙の痕を手でぬぐって、再びパソコンの前に座りました。
(落ち着いて、もう一度、Rさんの過去記事を読んでみよう…。)
彼のブログを再び読み返します。
(…奇妙な符号がある。
自分が何者かのスペアだと感じている点。
20歳頃に死ぬはずが、予定が変わって生き延びたという点。
過去生に戦士が多くて、この年まで生き延びている現実感が薄い点。
やはり、同じガイドがいる可能性が高い。
ルシフェルをハイヤーセルフに持つ、彼の下位存在同士、といった所か…。
ガイドが掛け持ちをしているという事はあり得るな。
そして、今、かつて彼のガイドだった存在は、ごっそり私のガイドにおさまっている。
ハイヤーセルフの権限で、能力の移譲が行われた、という事か…。
そんな話、聞いたことないけれど、やはりそうなんだろうな…。
救いなのは、その替りに彼に新しい役割と能力があたえられているらしい、という点だな。
よかった…。
能力を返す方法も分からないし、自分もガイドとアクセスできない以上どうしようもないし…。
それより、このことを彼に伝えるべきか?
私のブログを読んでいると言っていたし、いずれ分かる事だな。
ただ事前に説明するにも、唐突過ぎるし。
こうして、彼のブログを読んでいるだけでも、情緒が不安定で、グラグラしてくる。
…本当は、助けてほしい。
しかし、彼はレイモンさんの記憶を持つ、というだけで、同一人物ではないのだから。
迷惑はかけられない…。
ただでさえ、レイモンさんには、迷惑をかけたのだろうから…。)
私は彼のブログに、今後自分のブログに出てくるルシフェルとあなたの魔王は同一人物ですか?という質問のメッセージを送信しました。
そのメッセージは、あまりまとまりのない文章でした…。
そうして、彼と彼と仲の良いヘミシンカー達のブログを読んでいきます。
(なんだろう。
彼らはワンダラーなのかな…。
ワンダラーってなんだ?
…マサトさんのブログで読んだ言葉だな。
なんとなく、自分もワンダラーのような気がする…。)
そうして、ネットで、ガイドとアクセスできなくなった体験談を探しましたが、それ以上の情報は得られませんでした。
数日たつと、また体が疼いてきます。
私は再び、砂漠の谷間にそびえたつ宮殿に棲む魔王の元へと移行します。
ルシフェルの寝室へ、フワリと私の意識体が降り立つやいなや、彼が私の体を掴み、ベッドに押し倒してきます。
ル「待ちわびたぞ。」
私「ルシフェル…。ミカエルの居所を教えて。」
ル「戯言を…。」
私はルシフェルに抱かれるのを期待しながらも、後ろめたさから彼の胸を軽く押しやりますが、すぐに彼に腕をほどかれて抱かれてしまいます。
私「ルシフェル…気持ちいい…。」
ル「緑の姫君…。」
(あぁ、やはり、肌を重ねるごとに、彼に肉親の情を感じる。
これでは、近親相姦だ…。
でも、やめられない…。快楽に溺れる…。
それだけじゃない…、彼が愛しい…。
ミカエルがいるのに…。)
ルシフェルとのセックスは毎回凄まじい快感を伴っていました。
まるで、ラファエルさんと初めて結ばれた時のように、とろける様な快楽と。
体中のチャクラの回転数を整えられているかのような、涼しげな体感が同時にしていました。
(あぁ…ルシフェル…愛しい…。)
ル「緑の姫君、私の妻になれ…。」
私「ルシフェル……はぁはぁ…、青い…水…。」
ル「…っ!」
私の脳裏に鮮やかなブルーの水が光を受けて表面が乱反射している映像が浮かびます。
なぜか、その模様は四角く切り取られたかのような長方形の形をしており、その周囲は暗闇になっています。
白銀のロングストレートの髪に包まれた、ビスクドールのように完璧な相貌をもつ麗人は体をこわばらせます。
その瞳は、水色に揺らめいています。
私は彼の首に手をかけて、ささやきます。
私「はぁはぁ…、愛してるわ、ラファエル…。」
ル「……。」
私「…っ!ごめんなさいっ!」
ルシフェルは、上体を起こして、じっと私の顔を覗き込みます。
その瞳はごく薄い、マスカット・グリーンです。
ル「いや…。気にしていない…。」
私「え…?」
(どういう事?また彼の瞳が水色に見えて、ラファエルと見間違えた?
見間違えるか?顔だちも雰囲気も全然違うのに…。
ルシフェル、怒ってない??)
私の狼狽をよそに、ルシフェルは私に口づけをしてきます。
私は彼の胸を突っ張るようにして、不安げに彼の顔を見上げます。
ル「ふ。大天使共を籠絡したお前が私になびかないとは、納得がいかないな…。
その体、存分に味あわせてもらうぞ。」
私「そんな…。」
私は頬に熱を帯びるのを感じながら、再び、彼に抱かれて夢見心地になります。
彼との行為が終わると、いつもはそそくさと帰り支度をする私でしたが。
この時も彼が背後から、ギュッと抱いて離さないので、しばらくじっとしていました。
顔も熱くて、胸もドキドキしています。
(ルシフェル、大人の男の人なのに、いい匂い…。
…なんか、安心する。)
ル「…ずっとここに居ろ、緑の姫君。」
そう、背後からつぶやきながら、そっと片手で私の頬を撫でます。
私「……。」
なんだか、頭がクラクラしてきて、お腹の中がポカポカするような気がします。
(ルシフェル、寂しいのかな…。)
すると、彼が私の体をくるりと回転させて、自分の方をむけさせて、キスをしようとします。
私は、そこらにあったクッションをバフーッと彼の顔に押し付けて、体を離します。
私「延長は無しよ。そろそろお暇するわ。」
ル「もう少しここに居ても…。何か飲むか?」
私「結構よ。あなたもワインばっか飲んでんじゃないわよ。
あんなもの、単に酢でしょ?
肝臓を疲れさせて、わざわざ酢にするなんて、要領が悪いとしか思えないわ。
お酒なんて、脳が縮むだけじゃない。」
私はそこらにあった、自分が着てきたローブを身にまとい、絹糸のような長い黒髪を襟首から引き抜きつつ答えます。
彼は私の手首を掴んで、自分の胸元へ引き寄せます。
ル「まだ、帰らせない。」
私「何よ、文句ある?
酒飲んで、女抱いて、そんな事ばっかしてたら、しまいにゃお腹にぜい肉がついてブヨブヨよ。
どうせ、肉食なんでしょ?あなた。
今は若いから、気づかないけど、中年になった時、ガタが来るのよ。
女を嫁にしたいんなら、ベッドに誘うばっかじゃなくて、娯楽施設にでも連れて行きなさいよ。」
私は自分達の間にあった白いシーツを一気に引っぺがして、彼にまくしたてます。
私「だいたい、ここ暗いのよ!
明るくして、風通し良くしなさいよ、陰気くさい。
朝は早く起きて。
フルーツと野菜を食べて。
お水をたくさん飲みなさい。
女を抱くより、スポーツとか、他に体を動かす事しなさいよ!
趣味のない奴は早くボケるわよ?」
ル「お前、私を誰だと…。」
私「若づくりのお年寄りだと思っているわよ?
大体、その綺麗な顔、本物?
魔王ってんなら、魔法で作ってんじゃないの?
あ〜やだやだ、悪魔ってずるいわぁ〜。
信じられな〜い!」
ル「……。」
ルシフェルは微かに眉をしかめて、不愉快そうな表情を見せました。
腰のあたりにシーツを巻いて、足元はよく見えませんが、胡坐をかいているようです。
(表情が変わった!かわいいっ!)
私「アラアラ、ご不快だったかしら?
綺麗な顔が曇ってらっしゃるわよ?」
ル「……。」
私はふわりと彼の顔を包み込むようにして手を添えます。
私「うふふ。表情が出てきたわ。
いつも、あなた鉄面皮なんですもの。
あなたの事を憧れている人がいるんですから。
完璧な存在は近寄りがたいものよ?
少しは部下に相談とかしたら?
アンダーグラウンドを束ねるにしても、部下の信頼がなくちゃ、始まらないでしょ?」
ル「…お前、ここの女主(おんなあるじ)にならないか?」
私「ごめんこうむるわ。資質の問題じゃないの。単にやる気の問題ね。」
ル「これだけ言ってもか?」
私「用がある時だけ、お邪魔するわ。」
ル「私の妻になれ。」
私「私では力不足ね。
あなたには、もっと若くて元気のいい御嬢さんがお似合いよ。
そうね、あなたを尻に敷く位、元気のいい娘さんがいいと思うわ。」
ル「そんな女、どこにいる!?」
私「諦めないで、探す事ね!
きっと見つかるわ!
だって、あなたは、とても魅力的で長命なんですもの!」
私はフワリと彼の首に腕を回して囁きます。
私「もう、寂しくない?」
ル「お前がいれば。」
私は彼の肩に顎を乗せて、ごく小さな声で、彼に囁きます。
私「ルシフェル、好きよ。」
私はそっと、彼の耳にキスをして、背中に6枚の漆黒の羽根を出現させて、空中に羽ばたきます。
ル「緑の姫君!私の妻に。」
私「残念ながら、夫に、愛人、と、不自由はしてないわ。
極上の美人さん達ですもの。
でも、そうね、あなたの愛人になってあげるわ。」
ル「また来い!」
私「気が向いたらね。じゃね!」
私は一瞬で宮殿の外に移動して。
ローカル1に還ったのでした。
