ほどほどの時間に目が覚めて、身支度を整えて出勤します。
寝不足の頭を抱えて、なんとか仕事をこなし、お昼休憩に入ります。
いつもなら、急ぎ自宅へ戻り、キャットナッパーを聞くところなのですが。
自宅へ戻る気力もなく、職場近くのお弁当屋さんて、昼ごはんを買い、事務机で食事を済ませました。
20分ほど昼休憩が残っていたので、事務机につっぷして昼寝をします。
知らず、涙が滲みます。
(ミカエルは無事だろうか…。)
腕に額を乗せて、窮屈な格好でしたが、すぐに眠りの世界へと意識が引き込まれます。
気づくと青空の中、浮かんでいて、目の前3mほどの所にミカエルがいました。
私「ミカエル!」
ミ「私なら、ここにいる。」
風を受けてたなびく彼のウェーブがかかった長い金髪。
白い衣装。
どこまでも美しい男性の姿がそこにありました。
不思議と昨夜同様、彼の姿をしっかりと見ることができたのです。
しかし…。
私「ミカエル、体は!?体は無事なの!?」
私は顔にかかる長い黒髪を無意識に払いのけながら、彼に向って叫びます。
ミ「…あぁ。無事だ。ラファエルに癒してもらった…。」
そう言いつつも、彼の瞳は涙で潤み、頬も赤く。
呼吸も辛そうでした。
私「ミカエル…。熱があるのね。
傷は完全に癒えていない…。」
ミ「大丈夫だ。彼は癒しの天使だよ。」
私「夕べの私の振る舞いは酷かった…。
貴方が死んでも構わないと、本気で思っていた…。」
ミ「…君は、悪くないよ…。」
私は両の拳をきつく握りました。腕には長い黒髪がかかっています。
振り返ると背後には漆黒の6枚の羽根が生えていました。
私「…私は堕天使になりました。
あなたにふさわしくないかもしれない。
しかし、私が大天使メタトロン候補だったというのなら…。
私にも癒しの力があるはず…。
最後にお願いがあります。
あなたの傷を癒させてほしい。」
ミ「私なら、大丈夫だよ…。」
私は彼の体を透視します。
表皮は完全にくっついていますが。
真皮にはごく僅かな断層が残っています。
大きな血管や神経、骨は正常に治っていますが。
その他の筋繊維や細かな血管については僅かなズレが感じられ。
ラファエルの治癒は緊急救命処置的な印象を受けます。
きっと、まだ休んでいなければいけない状況にも関わらず、無理をして出てきたんでしょう。
私「嘘です。まだ傷は完全には癒えていません。
動くと痛みが走るはず。
呼吸が荒いのがその証拠です。
さぁ、私に癒させてください。
お願いします。」
私がそう言って、右手を上げると、彼の体がビクッと反応します。
夕べの事を思い出して、すくんだようです。
私「お願いです。
あんなにひどい事をして、あなたがおびえるのも当然です。
あなたを傷つけるつもりはありません。
私を信じてください。
あんな事をして、信じてくれ、なんて言える立場ではありませんが…。
お願いです。
貴方を癒したい…。」
ミ「………。」
私が涙をこぼすと、彼は滑るように私の側に近づいてきました。
私は彼の体をそっと抱きしめました。
体が触れると、彼が身をすくませます。
やはり痛いのです。
私はそうっと優しく彼を抱きしめながら。
胸の辺りにある、第四チャクラを開きます。
胸の奥から、緑色の光が溢れ出し、彼と私の体を包み込みます。
同時に頭頂部の第7チャクラをオープンにします。
頭の上にロートがあるイメージをして、ユニバースから無限のエネルギーをダウンロードします。
脳天から降り注ぐ、白いエネルギー。
まるでマグマのように熱を持ち、私の体を鋳型にして大量のエネルギーが体内を巡ります。
それを緑色の光に変換して胸から放出しつつ。
彼の背中に回した右手から白い癒しの光を注ぎ込みます。
ミカエルの背中にも不可視のロートが浮かび。
この中に右手で光を注ぎつつ、私の左手でロートから黒いものを吸い出します。
随分、彼も私に言えず、溜め込んでいた感情があった模様です。
(どうか、どうか、彼の全細胞が健やかになりますように…)
私は瞳を閉じて祈りを捧げます。
ミ「もう、いいよ。
もう、大丈夫だ。」
顔を上げると、鮮やかなエメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝き、微笑んでいます。
頬もバラ色で、色つやもよく、健やかになったのが一目で分かります。
私「あぁ。よかった…。
こんな事するの、初めてだけれど、ミカエルが無事で、本当に良かった…。」
ミカエルさんは私を抱きしめて、頭をなでます。
ふと、気づくと、私の髪の毛は白銀のストレートヘアになっていました。
背中の羽根も純白に。腰に近い部分は黒いままでしたが。
不思議な事に、私自身の瞳の色がマスカット・グリーンだという事も分かります。
私「姿が…。姿が元に戻っている。」
ミ「君は綺麗だ…。私の天使…。」
そう言って、彼は私に口づけをしてきます。
私は彼の顔を両手で包むようにしてじっと見つめ。
涙をボロボロこぼしながら、彼の額に自分の額をこつんと押しあてます。
私「ねぇ、ミカエル。
私達そっくりね。
まるで、サクランボね。」
始業のチャイムが鳴りました。
私はハンカチでこっそり涙を拭い、午後の仕事に取り掛かりました。
