全身をすっぽりと覆う、白いローブの様な衣装に身を包んだ私は、背中の12枚の羽根をはためかせ、アンダーグラウンドの世界へと移行します。
そこは暗闇ですが、不思議と視界には影響がありません。
夜空に瞬く星はなく、むしろ赤黒い空の下、砂漠の谷間に存在する、まるでパルテノン神殿のような、石造りの巨大な王宮へと舞い降りていきます。
私は、長い白銀のストレートヘアをたなびかせて、王宮の門前へと下降していくと。
ぐむり、とした、粘着質な圧迫感を感じます。
私の意識体の周りには何重ものリバルを張り巡らせてあります。
これにより、結界の役割を果たして地下世界に侵入した私は、どうやら王宮の結界に接触した模様です。
そのまま、強引に結界内に割り込むと、ヒュウッ!ヒュウッ!っと、風を切り裂く音がかすかにします。
音のする方に視線を巡らすと、先端に金属製のヤジリがしつらえてある矢が4本、私めがけて飛んで来ています。
柄の部分には紐が結わえられており、どうやらこれで、獲物を引きずり降ろす算段のようですが。
私のリバルに阻まれて、矢は命中しませんでした。
そのまま、門扉の上を滑空して通過し、正面玄関前に着陸します。
私「…フォーカスエリアでは人の事を散々引っ掻き回してくれたくせに、えらく物騒な挨拶じゃないか?
緑の姫君が直々に寄ってやったんだ。
茶の一杯でも振舞うのが礼儀ってものだろう?
それがこちらの流儀だと言うのなら。
こちらもそれなりの対応をさせてもらうだけだ!
ルシフェル、お前をぶっ飛ばす!!」
完全に頭にきている私は、久々にブラックしんじゅ☆♪になっています。
私は右手の手の平を正面玄関に向けてかざすと。
勢い良く、連続してリバルを放ちます。
ガシャーン!ガタ、ガタ、ゴトン!
リバルの勢いに押される格好で、玄関の扉が建物内へと倒れこみます。
蝶番が壊された玄関の扉のスペース分だけ、建物内が見渡せます。
外よりも暗い室内には、闇が広がり、扉が壊された音だけが響き渡ります。
扉は灰色の石が敷き詰められた床に無残に転がり、その上をのし歩いて私は侵入します。
私「邪魔するぞ。」
扉を踏みしめて、建物内に入ると、物音も人の気配もありません。
(手下でもいるかと思ったが、もぬけのカラか。罠の予感がする…。)
私「ルシフェル、茶の支度はまだか?
今すぐ謝るのなら、許してやる。
謝らないというのなら、待っていろ。
小細工など、通用しない。
正面突破で、会いに行く。
お前をぶっ飛ばしにな!」
そうして、私は魔王が棲む宮殿へと入り込んだのでした。
以前来た時は、1秒だっていたくない、と恐怖で震えていたというのに。
リバルを幾重にも張った関係でしょうか?
まったく臆することなく、私は啖呵をきっていたのでした。
少し進むと、石造りの階段があります。
そこを登ると、これまた灰色の石造りの回廊があり、そこを歩いて進みます。
すると、突然、床が抜けて、落下しかけます。
床下には、先端がとがった杭が無数にそそり立ち。
所々に骸骨が串刺しにされています。
私はとっさに翼をはためかせて、空中にホバリングをし、難を逃れます。
私「並みの人間なら、お前の側へ辿り着けないだろう…。
だが、私は天使だ。
こんなトラップではやられないぞ!」
回廊の中を飛んで進んでいると、またどこからともなく矢が飛んできます。
しかし、リバルを張っている私に命中する事はありません。
そのまま、空中を浮遊して進んでいくと、今度は壁面が回転し、壁に仕込まれた無数の杭が横から迫ってきます。
とっさに移動のスピードを上げて、そのトラップをやり過ごします。
そして、また更にその先へと進んでいくと、ゴトリ、と重く、鈍い音がして、回廊自体が回転し、私は別の空間へと移送されます。
淀んだ空気の中、気づくと、私の四肢はつる性の植物に絡め取られ、捉えられていたのでした。
私の足元からつるが触手のように、螺旋を描きながら登ってきます。
腕も、背中に生えている羽も同様に絡めとられていきます。
闇に蠢く植物は、ここを通る獲物を捕獲し、栄養とする、巨大な食虫植物のようなもので。
私の手足よりも太いツルが体に巻きついて、ギリギリと体を締め上げます。
背中から、バキバキッ!という、羽根が折れる音がします。
見下ろすと、足元には、白骨死体の残骸が散乱しており。
私はその植物から、なんともさもしい気配と、生への倦怠感を感じ取ったのでした。
私「植物で私に攻撃を仕掛けるとはな…。
哀れな…。
気も遠くなるような、長い長い時間。
光も差さない、この暗闇で、探求者を獲物に永らえるだけの生命…。
お前に安寧を与えてやろう…。
生命の循環の輪に戻れ。
癒しの緑の光!!」
私が、そう叫ぶと、クラウンチャクラが高速回転をし、上空から柱の様に緑色の光が差し込みます。
私の意識体を捉えている、植物に癒しの力を過剰に与え続けます。
植物は急速に成長し、一瞬でピークを迎え、枯れていきます。
体に巻きついていたツルは急速に細り、茶色に変色し、ボロボロとその姿を崩していきます。
私はアファメーションを行います。
私「コンセントレーション!
私の意識体は何一つ損なわれず、健やかに再生する。
私の精神力は強く、鋭敏な注意力、観察力、判断力を持つ。
私の疲労は回復し、集中力を保つ。
アーメン!」
すると、折れていた羽根が再生し、いびつに折れ曲がった手足もスムーズに動くようになりました。
私「ルシフェル、植物でここを訪れた者を嬲り者にするとは、見下げ果てた奴だ。
どれだけの長い間、この者に、こんな役割をさせてきたんだ!
お前の算段ごと、私が葬ったぞ。
待っていろ!」
私は胸の前で両手の平を打ち鳴らします。
パンッ!
私「コンセントレーション!
サイコメトリー発動!」
意識を周囲に拡げます。
障害物が何もない、空間を把握すると同時に、瞬時に意識体をそこに移行します。
そして、また回廊に出くわした私は、そのまま進み続けます。
途中、弓矢が飛んできたり、無数の杭が仕込まれた天井が落下してきたり。
その都度、リバルや、瞬間移動で、やり過ごしていましたが。
また、回廊ごと、ゴトリと回転し、別空間に移送されます。
ガシャリ!ガチャガチャ!
薄暗く、すえた臭いのする空間に、金属がこすれる音が響きます。
すると、剣を携え、甲冑を身に纏った10人程の兵士と出くわします。
顔は見えません。
完全に兜に隠れています。
私「怪我をしたくなければ、私を通せ。
通さぬ、というのなら、容赦はせぬぞ!」
無言で、兵士達は斬りかかってきます。
私「悪く思うな!」
そう言って、リバルを高速連続発射すると、兵士達はふっ飛ばされて、折り重なるようになぎ倒されていきます。
そのまま、そこを立ち去ろうとすると、背後でまたガシャリ!ガチャガチャ!という音がします。
振り返ると、兵士達が立ち上がっています。
しかし、頭や、腕がもげています。
鎧の隙間から覗くのは、骸骨です。
私「アンデッド・モンスターか!
これではキリがない!
遠隔で操作しているな…。
生命がない、というのなら、それこそ容赦はしない。
エネルギー変換ボックス!掃除機バージョン!」
右手をかざした私の前方に突如、巨大な大理石で出来た棺が現れます。
黒を基調とした、マーブル模様の棺の蓋が、ゴトリという音を立ててひとりでにずれると。
その隙間から、コゥッ!と空気を吸い込む音がして、兵士達を次々と呑み込んでいきます。
最後の一人を飲み込んで、石棺はひとりでに蓋が閉じ、フッと空間から掻き消えます。
私「はぁ。少し疲れた…。」
パン!
私「コンセントレーション!
私の疲労はたちまち回復し、鋭敏な集中力を取り戻す。
私の頭脳は明晰となり、すぐさま問題解決方法を引き寄せる。
アーメン!」
すると、クラウンチャクラがロート型に頭上に高速回転しながら開き、全身に白い光が降り注ぎます。
真っ白な光の柱の中に、私の意識体がおさまり、すぅっと疲労感が消えていきます。
私「よし!」
パン!
私「コンセントレーション!
サイコメトリー発動!」
私は再び、何のトラップも仕掛けられていない、回廊へと瞬時に移行します。
そうして、しばらくその回廊を歩いていると、周囲が徐々に狭まってきます。
その上、徐々に傾斜がかかってきて、少し坂道を降る感じになって来ます。
(なんだか、トラップ臭いな…。
相変わらず、四方は石造りか…。)
ごとん、ごるごるごる…。
何か非常に重いものが床に落ちた音がしたかと思うと、地響きと共に、何かが近づいてきます。
嫌な予感がして、背後を振り返ると、ちょうど回廊ピッタリのサイズの丸い巨石が私めがけて勢い良く転がって来ています。
私「インディー・ジョーンズかっ!
古典的過ぎるだろっ!!」
私は目を剥いて、慌てて胸の前で両手を打ち鳴らします。
パンッ!
私「コンセントレーション!サイコメトリー!」
そう言ったかと思うと、そのすぐ側の何もない空間へと、瞬間移動します。
すると、バサバサッと何かが上から落ちてきます。
気づくと非常に目の粗い、植物の綱で出来た、網に引っかかっていたのでした。
私は羽を使って、空中にホバリングしていたので、羽根の上の方で、網が絡まってきています。
私「網っ!これしき…。え?この臭い、まさかっ!!」
私がそうつぶやきながら、網に手をかけたのと。
その空間で、カチリ、と小さな音がしたのはほぼ同時でした。
その一瞬後、網がボゥッ!と、音を立てて、炎を巻き上げます。
綱に油が仕込んであったのです。
しかし、私は網に手をかけた瞬間、油の感触と臭いに気づき、小さな音と同時に水の精霊:ウィンディーネを呼び出していたのでした。
すぐに空間に水蒸気が充満します。
私「ウィンディーネ!助かったわ、ありがとう!」
ウ「どういたしまして。また何かありましたら、お召喚(よ)びください。」
そう言って、コバルトブルーのチューブトップのドレスを着た、長い金髪にアイスブルーの瞳を持つ、エルフの様な美貌を持つ、水の精霊:ウィンディーネの気配は消えました。
しかし、それでも背中の羽の上の2枚程は焼け焦げています。
パンッ!
私「コンセントレーション!
私の意識体は何一つ損なわれる事はなく、健やかに再生する。
私の疲労はたちまち回復し、集中力は保たれる。
私の頭脳は、明晰さを取り戻し、問題解決能力は復活する。
アーメン!」
そうして、背中の羽根を再生し、気力を回復させた私は、再びサイコメトリーを発動させ、長距離での瞬間移動を行います。
再び、回廊へと躍り出た私は、魔王:ルシフェルに会うべくその歩みを止めることはしません。
私「ルシフェル、顔を洗って待っていろ!
こんな事では、私は諦めないからな!」
