ラファエルさんは顔面蒼白になります。
ラ「ルシフェル…。」
私「はははは。
今頃気づいたか!
大天使も勘が鈍ったものだな…。
くくくっ。
この娘の本体が、私だと知って抱いていたのだろうに、何を動揺する?
くくっ。萎えたか。
萎んだぞ。
もう終わりか?」
ラファエルさんは、震えるようにして、私から体を離します。
ラ「ルシフェル…なぜ…。」
私「くくっ、なぜ?とはな…。
さっきまで、むしゃぶりついていた、愛しい女が男だと知って萎えたか…。
くくっ。
さぁ、続けろよ、癒しの大天使様。
お前とのセックスは最高だ。」
ラ「彼女の体から、出て行け。」
私「くくっ。私を呼び寄せたのは、お前達の方だ…。
そのくせ、自分達だけ耽っていて、いいのか?
ふっ、何を今更。
既に、お前は私を何度も抱いているぞ?
気づかなかったのか?
くくっ…。
このバージョンの緑の姫君は気に入ったか?」
私は肩にかかった長い黒髪を手で払いのけながら、自分の胸を揉みます。
ラ「それ以上はよせっ!!」
私「くく。この娘にまだ話していないのか…。
おあつらえ向きに、この娘は、まだ何も思い出していない…。
それどころか、喜んでお前達に抱かれている…。
くくっ。滑稽だ。
この娘が自分の正体を知った時のお前達の慌てる様を見てみたいものだ…。」
ラ「ルシフェル、消えろっ!」
私「くっ。無駄だ。
お前がこの娘に快楽を与えれば与えるほど、私に近くなる…。
セックスはタナトスだ。
お前は自分の手で、愛しい娘を私に近づけている事になる…。
さぁ、私を抱け。
お前好みでよがってやるぞ。」
そう言って、私はラファエルさんへ向って足を広げます。
ラ「彼女に体を返すんだ!今すぐに!」
私「ふ。そうだな、お前が私を抱けば、返してやるよ。
さぁ、私を抱け、大天使。
できないとは言わせないぞ。」
ラ「一体何を…。」
私はラファエルさんの首に腕を絡めて彼の耳元で囁きます。
私「ふ。哀れだな?ラファエル。
長年恋焦がれてきた思い人とやっと結ばれたと思ったら、ミカエルと相乗りか?」
ラファエルさんの顔が紅潮します。
私「くく。この変態め…。
自分の養い子に手を出すとは、鬼畜の所業じゃないか?
しかも、養い子と言っても、自分の息子ときている。
男同士じゃないか。
そして本体が私と知って、この娘を抱いている。
男だと知っていてだ。
ふふ…。
お前、自分の親友の兄とセックスがしたかったのか?
知っていたぞ、お前がどんな目で私を見ていたか。
神学校時代、自分の親友の兄に、あんな感情を抱いて、いやらしい…。
お前は変態だ…。
くくっ。
癒しの大天使が、聞いてあきれる…。」
ラファエルさんは自分の首に回された腕を外して、顔を背けながら、私をベッドに突き飛ばします。
ラ「いい加減にしろ!ルシフェル、彼女に体を返すんだ!」
私「くくっ。彼女ね…。
お前、この娘の生い立ちに同情しているんだろう?
父親に嬲り者にされた、この娘の過去を…。
お前自身の過去になぞらえて、憐れんでいるんだろう?
お前が愛しているのは、緑の姫君じゃない。
可哀相な、自分自身だ…。
そうじゃないと、言い切れるのか?」
私はすぐさま起き上がり、ラファエルさんの顎を下から鷲づかみして、彼の顔を自分の方へ向き合わせます。
ラファエルさんの瞳が藤色に揺らめいています。
私「ラファエル、お前は何度転生しても美しい…。
よくもそんな体に育ったものだな…。」
そう言って、静かに唇を寄せます。
ラファエルさんが目を見開きます。
唇を離して、私は続けます。
私「くくっ、赤い瞳のお前も美しかったぞ、グラディウス。
あぁ、魔法学校の先生もしていたか…。○○○○。
どの時代のお前も常に変わらず美しいな…。
だが、お前の人生もまた、血塗られている…。」
すると、私の脳裏に、ラファエルさんの面影を宿した少年の姿が浮かびあがります。
赤い瞳に真っ白な長いストレートヘアのまだ10歳にも満たない少年。
そこは娼館なのでしょうか?どこかの施設で。
まだ幼い、少年というよりは、幼児に近い、グラディウスと呼ばれる少年が、屈強な男達に囲まれ、襲われています。
相手は兵士の様です。
彼はコンクリートの上で男達に凄まじいまでの性的な暴行をされています。
私「イヤーッ!!
ヤメテ、ヤメテ!!
ラファエルさんがっ!!
ラファエルさんが、ひどい目にっ!
なぜ子供のラファエルさんが、あんな目に!!
誰か止めてっ!!」
ラ「落ち着くんだ!それは過去の映像だ!」
私「はははっ!グラディウス。男達の精液にまみれてもなお生き残ったか!
あの幼さで性を売り物にするとはな。
この娘と一緒だ!
そして、屈強な戦士になった。」
ラ「やめろ!ルシフェル!」
私「イヤーッ!!
ヤメテ!!頭がおかしくなるっ!
ルシフェルさん、ヤメテ!
こんな映像を私に見せないで!!」
ラ「ルース!落ち着くんだ。それは今の私じゃない!」
私「お義父さん!あぁ、おとうさん!助けて!
僕、こんなに苦しむお父さんを見たくない!」
ラ「あぁ!ルース!」
涙を流して頭を抱え込む私を見かねて、ラファエルさんが私を掻きいだきます。
私はベッドにつっぷして、体を震わせています。
ラ「ルース!大丈夫だ。私なら無事だから。」
私を抱きしめてそう囁くラファエルさんを視界に捕らえた瞬間。
私「ははははははは!
大天使ラファエルも動揺すると見えた!!
騙されたなっ!!
はははははは。
そう、易々とこの体から離れてやるものか!」
ラ「ルシフェル!」
私「いやぁ!!ラファエル、私の事を嫌いにならないで!」
ラ「ルース…。」
私「はははっ!ルースと思うか?
それとも、緑の姫君だと思うか?
さぁ、誰だ?」
ラ「くっ…。」
私「イヤー!ヤメテ!ルシフェルさん!
頭がおかしくなる!!苦しい!
イヤー!もうダメ!ヤメテ!」
ラ「ルシフェル!」
私「ははは。
そんな気色ばむ必要はない。
そろそろ退散する。
この茶番にも、飽きたしな。
ははは。大天使二人と緑の姫君か!傑作だ!」
ラ「…。」
すると、私の体からがくりと力が抜けて、ベッドに突っ伏します。
少しして、涙を流しながら面を上げると、視線の先にいたラファエルさんがみじろぎをします。
私「ラファエル…。」
ラ「…。」
彼は私に声をかけることが出来ないようでした。
私「…帰ります。」
ラ「ルース。」
私「…。」
そうして、私はローカル1へと一人で帰ってきて。
一人、自宅のベッドで涙を流し続けていたのでした。
『このバージョンの緑の姫君は気に入ったか?』
ルシフェルさんのこの言葉が、壊れたCDプレーヤーのように、何度も私の頭の中で繰り返し再生されていたのでした。
