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夜明け前46

ドンッ!ギシィ…。

障壁を抜けて、ローカル1に戻った私はベッドに沈み込むような衝撃を受けて、瞳を開きます。

私はノロノロとベッドから起き上がり、床へと力なくへたり込みます。
涙が後から後から流れてきました。

(なんなんだ、一体!
 これは、こんなことは。
 完全にルシフェルとの恋愛を愉しんでいる!
 これが、私なのか?

 ルシフェルがため息をついて、「また、来い。」と言った事に対して。
 わざわざ、彼の気を引く発言をして、誘惑している。

 あぁ、ルシフェルの事が好きだ…。

 でも、こんなこと…。
 こんな事になるとは、思わなかったんだ!
 
 これが、私…。
 ミカエルを愛している、と言いながら、ルシフェルの元へ走って…。
 ミカエルと結婚した時も、たった数週間でラファエルの元へと走っている。

 これじゃ、ただの尻軽女じゃないか!
 こちらでは、ろくに男性とも付き合ったことがないのに。
 女としての、無意識の欲求が暴走しているのか?

 あまりにも、ローカル1の人格と乖離していて。
 まるで、精神が分裂している。
 私は気が狂っているんじゃないのか?

 大体、大天使、とか、堕天使とか…。
 まったく、予想外の存在が出てきて。
 その上、大天使ミカエルと結婚だなんて、そもそもが妄想なんじゃないのか?

 その上、男の人を次々と誘惑していって…。
 自分で自分が信じられない。

 母親が亡くなった時、親族の叔父たちは姪に手を出そうとして、子供心に失望していた。
 自分は、そんな心根の卑しい人間にだけはならない!と固く誓ったはずなのに。

 父親にしたって、そうだ。
 幼い実の娘に手を出そうとして、半殺しの目に遭わせている。

 私に淫蕩な血が流れているという事か?
 なにか、根深い系譜の因縁がある、という事なのだろうか?

 …分からない、私が気が狂っているのか…。

 天使のように心の優しい母親に育てられ。
 悪魔のように暴力を振るう父親に育てられ。
 
 私の屈折した内面が投影された結果が、この顛末なのか?
 自分が、人を信頼できない欠陥のある人間だとは知っていたが…。

 それでも、人様に迷惑をかけるような事だけはすまい、と思ってつつましく暮らしていたつもりなのに。
 なぜ、こんな淫らな関係を断ち切ることができないんだ!

 わけが分からない…。
 私が気が狂っていない、という保証がどこにもない気がする…。
 今まで、私がお客様に対して言っていたことは一体なんだったんだ…。

 こんな人間が社会に出ていて、いいのだろうか…?
 私の精神は分裂しているんじゃないだろうか…。

 大天使ミカエルに嫁ぎ、大天使ラファエルに求婚されて。
 その彼らと突然アクセスがかなわなくなったと思ったら。
 今度は、堕天使ルシフェルに求婚される。

 どいつも、こいつも高次の存在とやらだ。
 人にはない視点を持った、彼らの意図とは、いったいなんなのだ。
 すべてお見通しのはずの彼らの間を、人間の私はフラフラと肉体関係をもつはめになっている。

 いったい、『緑の姫君』とは、なんなのだ…。
 コメント欄には、選ばれた存在、みたいな事を言う人がいるけれど。
 
 私には、『緑の姫君』はかわいそうな女の人のように思えてならない。
 本当に幸せな女の人なら、きっと相思相愛の男性に愛されて、一緒にいられるだけで満たされるはず。

 満たされない…。
 ミカエルに会えない。

 どんなに恋焦がれても、涙を流しても、心の内で叫んでも。
 彼は姿を現さない…。

 私は試されているのだろうか…。
 こんなに、愛しているのに…。

 どうして、会えないの?
 もう、どうしようもないほど、彼を愛しているのに。

 恋しくて、気が狂いそうなのに…。
 こんなに好きにならせて、なぜ姿を消したの?

 魂から、惚れているのに…。
 もう、どうしようもないほど、心を捕えられてしまっているのに…。

 胸が張り裂けそうなくらい、つらいの…。
 助けて…。

 人の心を魅了し、絶望を与える存在、悪魔…。

 私には、それがルシフェルというよりも…。
 彼の方がふさわしく思えてならない。

 愛しいあなた、ミカエル…。)


私は床の上で、ただただ涙を流し続けていました。

それは5月24日の出来事で、大阪へ行くまでに、あと一回、ルシフェルに会わずにはいられないだろうと、私はぼんやりと考えていました。


しかし、そうして彼と会う事はありませんでした。

それは私の身に、予想だにしなかった事態が起こったからでした。



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