ドンッ!ギシィ…。
障壁を抜けて、ローカル1に戻った私はベッドに沈み込むような衝撃を受けて、瞳を開きます。
私はノロノロとベッドから起き上がり、床へと力なくへたり込みます。
涙が後から後から流れてきました。
(なんなんだ、一体!
これは、こんなことは。
完全にルシフェルとの恋愛を愉しんでいる!
これが、私なのか?
ルシフェルがため息をついて、「また、来い。」と言った事に対して。
わざわざ、彼の気を引く発言をして、誘惑している。
あぁ、ルシフェルの事が好きだ…。
でも、こんなこと…。
こんな事になるとは、思わなかったんだ!
これが、私…。
ミカエルを愛している、と言いながら、ルシフェルの元へ走って…。
ミカエルと結婚した時も、たった数週間でラファエルの元へと走っている。
これじゃ、ただの尻軽女じゃないか!
こちらでは、ろくに男性とも付き合ったことがないのに。
女としての、無意識の欲求が暴走しているのか?
あまりにも、ローカル1の人格と乖離していて。
まるで、精神が分裂している。
私は気が狂っているんじゃないのか?
大体、大天使、とか、堕天使とか…。
まったく、予想外の存在が出てきて。
その上、大天使ミカエルと結婚だなんて、そもそもが妄想なんじゃないのか?
その上、男の人を次々と誘惑していって…。
自分で自分が信じられない。
母親が亡くなった時、親族の叔父たちは姪に手を出そうとして、子供心に失望していた。
自分は、そんな心根の卑しい人間にだけはならない!と固く誓ったはずなのに。
父親にしたって、そうだ。
幼い実の娘に手を出そうとして、半殺しの目に遭わせている。
私に淫蕩な血が流れているという事か?
なにか、根深い系譜の因縁がある、という事なのだろうか?
…分からない、私が気が狂っているのか…。
天使のように心の優しい母親に育てられ。
悪魔のように暴力を振るう父親に育てられ。
私の屈折した内面が投影された結果が、この顛末なのか?
自分が、人を信頼できない欠陥のある人間だとは知っていたが…。
それでも、人様に迷惑をかけるような事だけはすまい、と思ってつつましく暮らしていたつもりなのに。
なぜ、こんな淫らな関係を断ち切ることができないんだ!
わけが分からない…。
私が気が狂っていない、という保証がどこにもない気がする…。
今まで、私がお客様に対して言っていたことは一体なんだったんだ…。
こんな人間が社会に出ていて、いいのだろうか…?
私の精神は分裂しているんじゃないだろうか…。
大天使ミカエルに嫁ぎ、大天使ラファエルに求婚されて。
その彼らと突然アクセスがかなわなくなったと思ったら。
今度は、堕天使ルシフェルに求婚される。
どいつも、こいつも高次の存在とやらだ。
人にはない視点を持った、彼らの意図とは、いったいなんなのだ。
すべてお見通しのはずの彼らの間を、人間の私はフラフラと肉体関係をもつはめになっている。
いったい、『緑の姫君』とは、なんなのだ…。
コメント欄には、選ばれた存在、みたいな事を言う人がいるけれど。
私には、『緑の姫君』はかわいそうな女の人のように思えてならない。
本当に幸せな女の人なら、きっと相思相愛の男性に愛されて、一緒にいられるだけで満たされるはず。
満たされない…。
ミカエルに会えない。
どんなに恋焦がれても、涙を流しても、心の内で叫んでも。
彼は姿を現さない…。
私は試されているのだろうか…。
こんなに、愛しているのに…。
どうして、会えないの?
もう、どうしようもないほど、彼を愛しているのに。
恋しくて、気が狂いそうなのに…。
こんなに好きにならせて、なぜ姿を消したの?
魂から、惚れているのに…。
もう、どうしようもないほど、心を捕えられてしまっているのに…。
胸が張り裂けそうなくらい、つらいの…。
助けて…。
人の心を魅了し、絶望を与える存在、悪魔…。
私には、それがルシフェルというよりも…。
彼の方がふさわしく思えてならない。
愛しいあなた、ミカエル…。)
私は床の上で、ただただ涙を流し続けていました。
それは5月24日の出来事で、大阪へ行くまでに、あと一回、ルシフェルに会わずにはいられないだろうと、私はぼんやりと考えていました。
しかし、そうして彼と会う事はありませんでした。
それは私の身に、予想だにしなかった事態が起こったからでした。
